水の中の影
僕の家の近くには小川が流れていてね、今はもうなくなってしまったけれど、そこには小さな淵があったんだ。淵といっても、大きな水たまりぐらいの感じだったかな。そこで、よく遊んだものだ。春夏秋といろんな遊びがあったからね。
あるとき、その日はひどく雨が降ったんだけれど、僕が学校から帰る時には、もう上がっていてね、例の淵なんかもすごく濁っていたんだ。僕はいつものように、淵の中を覗き込んだけど、なんにも見えない。その水の真ん中あたりに、土管みたいなものが沈められていてね、そんなに太くはなかった。その上に乗って、水の中をじっと見ていたんだ。もちろんよく見えないんだけれど、何かいないかなあ、と思ってね。そのとき、土管の口の辺りにね、何かが動いたんだ。大きな影のような物が土管の中に入ったような気がした。僕はびっくりしたよ。これはきっと、魚かなんかで、もしかしたら、ここの主かもしれない、なんて思った。それで、その影を捕まえたくなった。
本当にいたのかどうかも、はっきりとは分からなかったんだけれど、無性に捕まえたくなったんだよ。きっといるって思った。それで、土管の中から追い出そうとするんだけれど、何しろ、水が濁っているからよくわからない。そこで、僕はいい事を思いついた。はいていた長靴を脱いでね、土管の片方に詰めたんだ。そして、反対側から追い立てれば、上手く捕まえられそうだった。そこで、あれこれ工夫しながら長いこと頑張った。そして、その影のように見えた魚を追い詰めて、いよいよ手に入るぞ、というところまで来たんだ。ところが、なんと、ちょうどそのとき、つめていた長靴が外れちゃったんだよ。
魚はもちろん、逃げてしまった。がっかりしたよ。それでも、諦めずに挑戦したんだけれど、とうとう、捕まえる事はできなかったよ。その上、家に買って、ひどく叱られてしまった。何故かというと、僕が栓の代わりに泥だらけにしてしまった長靴は、買ったばっかりだったからだよ。もう、とてもはけないくらい汚しちゃったからねえ。