武生の庭を見て
そもそも庭造りは、まずその地の在り方を上手に利用することだと請われているが、

古い庭は見事にその考慮が生きている。山村の庭は山村ならではの設計が出来て

いて、周りの環境とうまく溶け合っているし、市街地の庭は狭いところで亭主の好みを

巧みに生かしている。

特に商業地の特色である、間口に比べ奥行きの長い敷地を利用して、面積の割には

狭さを感じさせない深い趣の庭が出来上がっている。

また、庭に心を込めるほどの人は、さすがに住居にも気を配り、調度品なども趣味の

良いものを揃えている。

武生は何度も大火を経験しながら、その度に罹災以前にも増して心を込めて再建され

ているのも、庭造りへの思い入れの表れかと思う。

山村の庭を見、市街地の庭に降り立って気がつくことは、それが何れも庭師によって

造られたものというより、亭主の遊び心によって造られたものだということである。

世に名園といわれるものの大半は、江戸時代の造園書によって造られたものが殆どで、

完成度は高くても一方で趣のないものが多い。武生の庭には大金を投じたものはないが、

込められた心と趣味の豊かさが窺がえて楽しいものが多くみられる。

 
                                            芹川 生夫 


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