序章  「ねえ、あの店入ってみようよ。なんか面白そうな物あるかもよ?」 「なんだよ、またかよ!2時に待ち合わせって言ったのお前だろ!」 「・・・でさ、あいつったらおかしいんだよ」  ここは、とある街の駅前。時間は午後2時を少し過ぎたところ。 日曜日とあってか、友達と買い物に来た女の子達の集団や、友達か恋人と待ち合わせをして、遅刻を食らってる男の人や、携帯電話で楽しそうに話をしている女の人が立ってる。そんな、どこの街でも見かけるごく普通の風景の中に、彼女はいた。  年の頃は17か18、長い黒髪を後ろでただ束ねているだけ、服装も黒で統一されていた。はたから見れば、同性に、しかも、年下の女の子に人気がある、カッコイイお姉様タイプである。これを裏付けるかの様に、さっきから中学生らしき女の子の熱い視線を受け続けている。ただ、それもほんの少しの間だけで、みんな彼女が左手に持っている一振りの刀を見たとたん、何も見なかったかのように彼女から視線を外し、急ぎ足で去って行く。  そんな事はお構いなしに、彼女は立っていた。彼女の足元を見てみると、大きな鞄が一つとおそらく今彼女が左手に持っている刀を入れていたであろう、布製の長い袋のようなものと、それと同じ色で少し小さい袋が置いてあった。もちろん、小さい袋の中にはもう一振りの刀が入っている。  そんな彼女に対する憧れの眼差しや、微かに聞こえてくる批難の声にも、飽き飽きしてきた頃、彼女の目の前に白い車が止まり、中から男性が降りて来た。歳は彼女より少し上ぐらいで、ちょっと高そうなスーツを着ていた。 「久しぶりだね。未希ちゃん。何年ぶりかな?」 「最後に会ったのが、私が小学校六年生の時でしたから、・・・5、6年ですかね・・・でも、よく私だって判りましたね。徹兄様」 「実の妹の事が判らない兄がどこにいる?」 「そうですか?一時間程私の前を車で何回も通り過ぎて行ったのは何故ですか?」  未希と呼ばれた女の子が悪戯っぽく笑う。 「うっ、気付いてたのかい?だったら、声ぐらい掛けてくれても良いじゃないか・・・」 「いえ、いつ私に気付いて下さるのかと思って・・・徹兄様ったら、これを見せてもなかなか止まって下さらないし・・・少し悲しいです・・・」  未希は左手に持っていた刀を徹に見せてから、ちょっと涙ぐむ。 「い、いや、まさかこんな昼間に刀を持って立っているとは思わないじゃないか・・・久しぶり兄妹の再会なのに、そんなにいじめないでくれ」 「それもそうですね」 「そうだよ」  二人はクスクスと笑い出した。 「さて、そろそろ行こうか。みんなも首を長くして待ってる」 「はい、早くみんなに会いたいですし」 「よし、じゃあ行こう」 「はい」  未希は刀を袋に戻し、徹の車に乗りこんだ。徹は未希が車に乗るのを見届けてから自分も車に乗った。 第一章 再会  さて、ここで二人の自己紹介をしましょう。  駅前で徹を待っていた少女、彼女の名前は沢渡 未希。歳は18で今年高校を卒業したばかりだ。 未希は就職はせずに実家の剣道道場を継ぐ事にしたのだ。そのために彼女は6年間離れていたこの沢渡家の家に帰ってきたのだ。  次に未希を迎えに来た男性、彼の名前は沢渡 徹。歳は23で沢渡家の長男である。徹は某一流企業に勤めている。未希とは実の兄妹だが、未希が遠くの全寮制の中学校に入学する時に会ったのが最後で、現在に至る。  さて、この沢渡家、未希と徹の他にまだ二人の弟妹がいる。ちなみに未希は長女である。 この沢渡家は古くから剣術道場を開いていたが、途中で剣道道場に変えた。その理由は、先代の剣に対する考え方からである。その考え方とは、『剣術は人を殺す為の物であり、人に教える物ではない』というものだった。そして、この剣術道場は剣道道場に生まれ変わったのである。  さてさて、そうこうしてる内に、未希と徹が家に着いたようです。  白い車の助手席側のドアを開け、車から降りた。 「う〜ん、この家に帰ってくるのも、6年ぶりか・・・本当に久しぶりね〜」 「そりゃそうだ。6年間いつでも帰って来れたのに、お盆にすら帰って来なかったからな・・・」  未希が顔を引きつらせながら、乾いた笑いを上げている。  徹の方は、しょうがないなといった表情で、笑っている。その時、突然家のドアが空いて一人の少女が未希に抱きついた。 「未希お姉ちゃ〜〜〜ん!!!おっかえり〜〜〜!!!!!」 「きゃ!?」  不意を突かれた上に、勢いよく抱きつかれたせいで、思いっきり倒された。結果的には飛び出してきた少女に未希が押し倒された形だ。 「あいたたたた・・・・」 「未希お姉ちゃ〜ん、会いたかったよ〜、手紙も書いてくれなかったから、寂しかったよ〜」  少女は未希の胸に顔を埋めて、甘えた声を出していた。この少女こそ沢渡家の次女である沢渡 梨恵である。歳は15で今年高校に入学したばかりである。外見は大人びて見えるのに対して中身の方はまだまだ子供である。 「ちょっと、梨恵!びっくりするじゃないの!こら、いつまで抱き付いてるの!」 「だって、うれしかったんだも〜ん」 「こら、梨恵、未希から離れてやりなさい」 「は〜い」  梨恵は少し残念そうに未希から離れた。徹の方は羨ましそうだったが・・・。 「まったく、6年前とまったく変わってないわね・・・梨恵」  そう言いながら梨恵の頭を撫でてやる。 「えへへ」  梨恵は嬉しそうに心から笑った。そんな光景を家のドアからびっくりした様子で見ている少年がいた。しばらくすると、正気に戻ったのか咳払いをして未希達の方へ歩いて来た。 「お久しぶりです。未希姉さん」  少年は照れくさそうに言った。 「本当に久しぶりね。高司。あなたは男の子らしくなったわね」 「はい、いっぱい剣道の練習をしましたから・・・」  高司は元気よく答えた。この少年はもう分かってるとは思いますが、沢渡家の次男である沢渡 高司である。歳は梨恵より1つ下の14で中学3年生。学校では生徒会長を務めている。頭の方も校内一で顔立ちも整っているので女子の人気は絶大である。 「高司はお前がこの家を出てから、一生懸命、剣道の練習をしてたからな」  徹がそう言うと、高司は顔を真っ赤にした。 「そっか、がんばったわね、高司」  未希が高司の頭にそっと手を置くと、高司はますます顔を赤くして家の中に飛び込んでしまった。 「どうしたのかしら?顔を真っ赤にして・・・」 「照れてるんだろう・・・自分の姉が6年前とは見違えるほど綺麗になって帰ってきたんだからな。高司もそのうち慣れるだろ」 「ねぇねぇ、未希お姉ちゃん!早くお家に入って色んなお話聞かせて?」 「はいはい、分かったわよ・・・」  未希が梨恵に手を引かれ家の中に入っていった。その様子を徹は嬉しそうに目を細め眺めていた。この時はまだ誰もこれから起こる出来事など想像もしていなかった・・・。