私立桜ヶ丘学園、麗らかな昼休みの廊下の騒がしい足音からこの物語は始まる。 「待ってーーー!綾瀬くーん!」 必死に綾瀬を追いかける少女、冴木麗奈(さえきれいな)。十五歳。今は訳あって綾 瀬という少年を追っている。 「ふざけんなよーっ!俺は部活には入らないんだよー!」 麗奈から必死に逃げる少年、綾瀬桂(あやせけい)。十五歳。彼は綾瀬探偵事務所の 一人息子だ。麗奈はこの桜ヶ丘学園高等部の探偵部の部員で新入部員を探している途 中に「綾瀬探偵事務所の息子がいる。」という噂を聞きつけ綾瀬を追っているのだっ た。 綾瀬探偵事務所と言えば全国から依頼が殺到し、なおかつ一度も迷宮入りになったこ とが無い現在の探偵会を引っ張る探偵のトップだ。 「綾瀬探偵事務所の綾瀬幸二(あやせこうじ)と言ったら名探偵中の名探偵で しょーー!?」 「活躍してるのは親父の方!それに俺が探偵部に入る義務はねーだろーが!」 綾瀬は行き場を失い屋上へ逃げ込んだ。すかさず麗奈も屋上へ駆け込んだ。 屋上には誰もいなかった。心が落ち着いた状態なら「気持ちのいい風だなあ」等と 言っていられるのだが今はそれどころではない。 ――が、しかし。 麗奈は追っては来なかった。ただ窓の所から顔を覗かせるだけだった。 「何だ…追ってこないのか?」 と、その時。 ――ガチャリ。 ドアからカギがかかった音がした。 「ま!まさか!?」 綾瀬は冷や汗を垂らした。 「入ってくれるまで入れないよ♪」 麗奈がにこりと微笑んだ。 「そういうのは「勧誘」じゃなくて「脅迫」っていうの知ってるか?」 「…さあ?何々でしょうねぇー?」 「この…!」 桂は成す術も無く立ちすくんでいた。…と、思うと桂は麗奈から見えない所に隠れて しまった。 「どこへ逃げても出入口はココしか無いんだからココからじゃないと入れない よー。」 麗奈は勝ち誇っていた。 が、相手はあの名探偵の息子だ。何をしでかすか分からない。 次第に麗奈の心の中は不安感が募ってきた。 「…どこ行ったんだろう。」 麗奈はドアの窓から首を伸ばして辺りを見ようとした。 ――その時。 「屋上は確かにそこの出入り口しかないけど考え方によってはどこからでも出ること が出来るんだぜ?」 突然桂の声がした。麗奈は辺りを見まわした。 そこにはすでに校舎の中に入っていた桂がいた。 「え!?どうして!?だって出入り口はココだけだよ!」 「ココは地下じゃない。と言うことは周りが壁ではない。まぁ、フェンスと言う壁は あるけどな。乗り越えようとすれば簡単だ。」 「でもどうやって下に…!」 麗奈は不思議そうな顔をした。 「麗奈って言ったよな。桜ヶ丘学園の男子の制服は?」 桂は突然麗奈に問い出した。 「え…?男子はブレザーだけど…。それがどう関係があるのよ。」 「じゃあこれはなーんだ?」 桂はベルトとネクタイを取り出した。 「こんなの、ベルトとネクタイに決まってるじゃない。」 麗奈があきれた声で答えると桂は黙ってうなずいた。 「そりゃそうだ。この二つって結構丈夫なんだよねー。」 桂がわざとらしく解説を始めた。 「あ!もしかしてそのベルトとネクタイを使って下に降りて行ったの!?」 麗奈がそう言うと桂はやっと気づいたか、というため息をついた。 「そ。早く気づけよ。」 「ど、どうやって!?」 「そこのフェンスにベルトの金具を通して下に降りたんだよ。俺がベルトを使って下 に降りた方法はな。」  桂は爽やかに答えた。 「え!?でも金具の所に通したら下に降りてから引っ張ってもほどけないよ!?ベル トだって確かに金具をを通せば下に降りられるけどやっぱり下からじゃほどけないよ !」 「うん、まあな。でも俺はベルトだけを使ったわけじゃないから。」 桂は淡々と答えた。 「あ、そうか。でもネクタイを使ってどんなことに使うの?ベルトみたいに強度あま り強くないよ?」  麗奈の頭の中でさらに謎が深まった。 「別にネクタイを使って降りるわけじゃないさ。ベルトの金具の所にネクタイもくぐ らせておくんだよ。」 「…!?それだけ?」 麗奈は拍子抜けしてしまった。もっと複雑なことなのだと思い色々なことを考えてい たのだ。 「なんなら試してみようか?そこのフェンスに俺のベルトをフェンスに通してみな。 「論より証拠」だ。」 麗奈は言われるがままにベルトの金具の所にベルトの紐とネクタイを通した。 「まずはベルトの紐を強く引っ張ってみな。」  桂がそう言うと麗奈はベルトの紐を強く引っ張った。 「へぇ〜。ベルトの紐って私が思っていた以上に丈夫なんだね…。」 麗奈が感心していると、 「じゃあ今度はネクタイを通した方と通してない方と両方持って軽く引っ張ってみ な。」  と、桂が言った。 「うん。」 麗奈がうなずき、ネクタイを引っ張るとスルスルとベルトがほどけ、麗奈の所へ飛ん できたのだった。 「どうだ。これで分かっただろ?」  桂が腕組みをしてふぅ、と一息ついた。 「そっか…。そうなんだ。凄い!凄いよ!やっぱり綾瀬君は我が桜ヶ丘学園探偵部に ふさわしいよ―!と、言うわけでハイ!入部届!」  麗奈が桂の目の前に入部届を突き出した。 「だから…俺は入らないって言ってるだろー!」 桂がそう言うと桂は階段をすさまじいスピードで降りて行った。 「待ってよー!綾瀬くーん!」 麗奈も負けじと桂を追い始めた。 「何でこうなるんだよ…。あれ?そう言えばなんで屋上に戻ったんだ?そのまま戻っ てりゃ良かったじゃねーかよ。」 今ごろになって桂が後悔し始めた。 と、その時。 「こらーっ!昼休みはとっくに終わってるんだぞー!そこの二人ー!さっさと自分の クラスに戻れー!」 学年主任の先生が二人に大声を張り上げた。 「やばっ!くそぉー!あの女が悪いんだよぉー!!!」 桂が叫びながら自分のクラスに戻っていった…。                             つづく…