★が多いほど(独断と偏見で)面白い。ネタバレあり。
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「都会のトム&ソーヤ〈3〉」 「都会のトム&ソーヤ〈2〉」 「都会のトム&ソーヤ〈1〉」 「NO.6(#1〜#3)」 「やっかいなすてご」 「西の魔女が死んだ」 「誰かののぞむもの」 「蒼路の旅人」 「くらのかみ」 「バッテリーY」 「狐笛のかなた」 「読書感想画課題図書シリーズ2」 「読書感想画課題図書シリーズ1」 「大掴源氏物語 まろ、ん?」 「精霊の木」 「キノの旅」 「スカーレット・ウィザード」 「デルフィニア戦記5〜18」 「光とともに〜自閉症児を抱えて〜」 「読書感想画課題図書シリーズ」 「デルフィニア戦記1〜4」 「だるまちゃんとてんぐちゃん」 「だるまちゃんとかみなりちゃん」 「しばわんこの和のこころ」 「神の守り人」 「バッテリー(X)」 「ゼニの秘密教えたる」 「なぞとき美術館」 「市川染五郎の歌舞伎」 「月の森に、カミよ眠れ」 「課題図書3」 「課題図書2」 「課題図書1」 「DIVE!!(4)」 「DIVE!!(3)」 「DIVE!!(2)」 「DIVE!!(1)」 「バッテリー」 「放課後の時間割り」 |
「ハリー・ポッターと謎のプリンス」 「セブンスタワー」 「ヒルベルという子がいた」 「Love You Forever」 「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」 「数の悪魔」 「盗まれた記憶の博物館」 「アリーテ姫の冒険」 「道」 「ゲド戦記T」 「指輪物語・旅の仲間上」 「ビッビ・ボッケンのふしぎ図書館」 「ネシャン・サーガ〈3〉裁き司最後の戦い」 「アルテミス・ファウル」 「レイチェルと魔導師の誓い」 「ローワンとゼバックの黒い影」 「3びきのかわいいおおかみ」 「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」 「安楽椅子の探偵たち」 「みみずのカーロ」 「アブダラと空飛ぶ絨毯」 「魔法使いハウルと火の悪魔」 「レイチェルと魔法の匂い」 「レイチェルと滅びの呪文」 |
18.5.22
「ハリー・ポッターと謎のプリンス 」2006・静山社・J. K. ローリング, J. K.
Rowling, 松岡 佑子 ★★★★☆
4巻「炎のゴブレット」ではディゴリーが死に、5巻「不死鳥の騎士団」ではシリウスが死に、とハリーは身近な人の死という試練を立て続けに受けましたが、今度は・・・。
ディゴリーの死は必然性が薄かった。ハリー・ポッターにとってはそれほど親しくないライバルだったのに、清廉な性格ゆえに彼と共に行動し、無念の死を遂げるというのは、ハリーの心に深い傷を負わせました。シリウスの死は、彼が、唯一肉親同様の愛を持ってハリーの癒せぬ孤独を埋めてくれる存在だっただけに、手痛い打撃で、7巻になっても、ハリーはその陰を引きずっています。
しかし、ここに来て更なる試練として与えられたのは、ハリーの精神的な指導者であり、ほとんど信仰対象ともいえるダンブルドア。でもなあ。本当にあのスネイプがダンブルドアに手を下したの!?これまで寒を通して、異常なほどに悪役として描かれ続けたスネイプですが、まさか、額面どおり敵方だとは思えません。8巻で生き返るんじゃないの?
ヴォルデモート卿=トム・リドルの生い立ちが明かされるのも、興味深かったですね。まあ、それがこの巻の眼目なのですが。それに、あのドラコが嘆きのマートルに弱みを見せてるって?高慢ちきなドラコの涙・この期に及んでのためらいは、ちょっと感動的でした。
4巻で失速した感があったこのシリーズでしたが、この6巻はそれほどの山場を作らずに進む異色の展開で、私は気に入りました。望むらくは、大どんでん返しで、めでたしめでたしの最終巻でありますように。
18.5.9
「都会のトム&ソーヤ(3)」2005・講談社・はやみね かおる ★★★☆☆
眉目秀麗・頭脳明晰にして財閥の御曹司・創也と婆ちゃん仕込のサバイバル少年・内人の冒険話、第三弾。
今回登場する新たな敵は、適法・違法にかかわらず緻密な計画を売り物にする『頭脳集団(プランナー)』。二人の学校が舞台となります。ただし雰囲気は中学というより高校ですが。
ここにきて、連載格闘物の陥りやすい『敵のインフレ化』症状が見え始めましたか。二人の能力はどんどんレベルアップし、敵もまた前回を上回る強さを備える。その行き着くところは・・・。
もっと力まずに、ありそうでない状況だといいのに。これでは、非日常すぎる気がするなあ。
18.5.7
「都会のトム&ソーヤ (2)」2004・講談社・はやみねかおる著 ★★★★☆
眉目秀麗・頭脳明晰にして財閥の御曹司・創也と婆ちゃん仕込のサバイバル少年・内人の冒険話、第二弾。(1)では名前だけの登場だった謎のゲーム作者「栗井栄太」の正体が明かされます。
相変わらずの軽快なストーリー展開。『活字力全開』のYA!エンターテイメントらしい一冊です。この読みやすさは一体何?というほど、ライトノベルらしい面白さが一杯です。ためになる点は・・・。内人の披露する危機回避のノウハウ。一生使いそうにないか。
今回は、箸休めということで、本編の間に中学生の学校における遊びが紹介されているのもご愛嬌。(勿論、本編の伏線にもなっているし、ありえんぞ!というツッコミは欠かせません。)
18.5.1
「都会のトム&ソーヤ〈1〉」2003・講談社・はやみね かおる ★★★★☆
ヤングアダルト系では抜群の人気のはやみねかおるの痛快‘青春’冒険物です。眉目秀麗・頭脳明晰・唯我独尊の財閥御曹司という絵に描いたようなヒーロー?竜王創也と、ばあちゃん仕込みの卓越したサバイバル技術を持つフツー?の少年・内藤内人の中学二年生コンビが繰り出す、冒険の数々、一気に読んでしまいます。
語り手である内人(ナイト)の内言は、「1人ノリツッコミ」であることが多く、軽妙な文体が嫌味じゃなく楽しいです。こんなことありえん、と思いながらも、現代日本の都会のどこかに、こういう冒険があったら愉快だろうな、と思います。
創也のボディガード・二階堂卓也という超人的な強さを持つお目付け役の人物設定もいい。人を人とも思わない創也をビビらせる唯一の人物。実在したら、さぞかっこいいことでしょう。
冒険自体は、スリリングながらあんまり力んでないので、どちらかというと主人公二人の妙にズレた会話を楽しみながら読み進められます。ちょっとした時間を見つけて読んでみると良いと思いました。
18.2.16
「NO.6(#1〜#3)」あさのあつこ(講談社)2003 ★★★★☆
次々と話題作を提供してくれるYAの作家、「活字力全開」のキャッチどおりに、ぐいぐいと読ませてくれます。
舞台は、差別化が進んだ近未来世界。ワケありの少年「ネズミ」を助けたことにより、エリートの座から追われた少年紫苑を中心に物語は疾走します。#1〜#3と進むにつれ、「理想郷:NO.6」とそこから排除された無法世界との対比が鮮明になっていきます。
主人公・紫苑の固持する理想は、厳しい現実の中では余りに無力なのだけれど、現実に順応し弱肉強食を生きる「ネズミ」たちの心の奥に埋もれている何かを刺激し、彼らをして自分でも予期せぬ行動へと駆り立てて行きます。その過程の描写が鮮やかです。#3には、珍しく作家による後書きがあると思ったら、#4には作者名が3人並んでいました。共作なのかもしれません。一刻も早く読まなければ・・・。
ところで、この「NO.6」という命名は、あの名作TVシリーズ「プリズナーNO.6」から取ったのでしょうか。完全管理の社会という点で、同じような気がしました。
18.1.24
「やっかいなすてご」梨木香歩(徳間書店)1995.12 ★★★★★
ちょっと見は小さい子用の絵本に見えますが、中味はなかなか深いです。言葉面なら小学校低学年でもOKみたいですが、本当に面白く読めるのはもっと上の学年なんじゃないかな。
このシリーズの主人公の女の子は、弟が生まれてなんだか複雑な気持ちになります。やっかいな「おさる(=弟)」を箱に入れて、どこかの家に「プレゼント」してしまおうとするのですが、なかなか上手くいきません。最後に友達の家に無理においていったくせに、塀の外からかわいい笑顔を見て(自分では認めませんが)すっかり気落ちしたところへ、箱に入った弟がプレゼントとして戻ってきて、めでたしめでたし。
この気持ちの流れが、素直でいいんだな。大人びた言い回しと、考えていることの幼さのアンバランスが絶妙です。挿絵に付いている手描きの文字も秀逸。全部ひらがななのに結構な文量があり、エピソードの上手くできているので、ぱぱっと読むというわけには行きません。大人でも十分楽しめる本ですね。
17.10.31
「H17読書感想画指定図書」
小学校低学年
フレッド・マルチェリーノ・作/せなあいこ・訳 |
ワーニー、パリへ行く 評論社 |
絵本ですが、内容は皮肉で、低学年には難解かもしれません。 |
エジプトで何不自由なく暮らしていたワニのワーニー、捕まってパリへ。一時手にスター扱いされたものの、ディナーにされそうになり、下水へ逃げだし、人食いワニとして悠々自適に暮らします。 |
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つちだよしはる・作・絵 |
みんな みんな なかよし あかね書房 |
動物を擬人化して、子どもたちの楽しい暮らしを描いています。共感できる部分は多いかも。 |
クマ・キツネ・タヌキ・ウサギの子どもたちは大の仲良し。雨の日も思わず外に飛び出してしまいます。(第一話)クマの子は海水浴でかっこいいお父さんみたいになりたいと頑張って島まで泳ぎました。(第二話)1人で阿蘇分子どもたちはそれぞれに素敵なものを見つけ、友達に教えたくなりました。(
第三話) |
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長崎夏海・作 |
星のふるよる ポプラ社 |
都会で親に構ってもらえない子どもたちが、自分で自分なりにその暮らしと折り合いをつけて頑張っていく様子がけなげです。絵にできそうなシーンも多いです。 |
カギっ子のかりんは、星が大好き。拾った傘に穴を開けて、☆s¥空を造ります。そこに乱暴な転校生カズくんがやってきて、「東京の空はうそだと。」意地悪なことを言います。がっかりするかりん。でも、カズ君も同じ境遇と知って、心が通い始めるのです。 |
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沢田俊子・文 |
盲導犬不合格物語 学習研究社 |
単一の基準で犬の値打ちが決まるわけではないことが、人間の可能性にも気付かせてくれます。描きやすそうだが、文章は長い、 |
盲導犬にばかりスポットが当たっているけれど、訓練しても半数以上は不適格として、盲導犬になれない。なぜそうなのか、その後どうなるのか。様々な場所で頑張る様子が次々と出てきます。 |
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小学校高学年
マックス・クルーゼ・作 |
ウルメル ひくまの出版 |
現代版のドリトル先生と言った趣。動物が多く出てきて、人間のように行動するところが、感想画向きかも。 |
教授ハバクク教授は、助手代わりのティムをつれて遠くの島に渡ります。そこで氷山に閉じ込められた太古の生物ウルメルを見つけます。わがままな王様がウルメルをさらおうとしますが、言葉を話す動物たちの活躍で、めでたしめでたし。 |
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なかがわちひろ・作 |
しらぎくさんのどんぐりパン 理論社 |
幻想的な世界や愉快なシーンなど、様々な切り口がるお話です。 |
森の奥でしらぎくさんという不思議なおばあさんに出会った姐姉弟。せいやは空の上でコガネムシの引くガラスだまに乗り、佐和子は海の底で人魚姫に出会います。 |
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最上一平・作 |
山のかぼちゃ運動会 新日本出版社 |
終戦直後と言う時代設定が古いので、今の子どもにどれだけ想像できるかは不明。 |
山奥の小さな集落に住む小学生耕吉が主人公。母が急病で入院したため、学校を休んで蚕の世話などをして働いています。貧しい中で助け合う村の人たちや耕吉の生活が生き生きと描き出され、しみじみと胸を打つ話。 |
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水口博也・著 |
クジラ 金の星社 |
クジラの写真(モノクロ)画たくさん掲載されているけれど、文章と併せてこそ。感想画にするには、文章に描かれた内容をしっかり読み、きちんと表現することが必要。 |
鯨を追ったノンフィクション。鯨の生態が詳しく紹介されています。科学的な内容が多いですが、作者のクジラへの不快共感が、文章のそこかしこに溢れていて、人間味を感じさせます。正確な記述に挟まって情のある部分が魅力。 |
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17.9.28
「西の魔女が死んだ」梨木香歩(小学館)2003.4 ★★★★☆
一見ファンタジー風のタイトルですが、内容はマジメな児童文学。他と同調するのを止めた中学生・まいは、現在不登校中です。理由は、クラスの女の子グループ同志がまとまるために「共通の敵」(つまり、まい)を作ったこと。両親は、まいを分かれて暮らす祖母の元へ送り出します。祖母はイギリス人。いつもしゃんと背筋を伸ばして生きる毅然とした女性です。まいは彼女の元で暮らす日々の中、自分の足で立って生きることを学んでいきます。
山の中にある祖母の家がいい。ハーブ園やサンルーム、秘密の草原など、日常とは違う魅力的な空間で、まいはベッドメイキングをならい、花に水をやり、庭の鶏の卵を集めます。こうした日々の暮らしの一つ一つをきちんと続けていくことが、知らず知らずにまいの迷いを消し、現実に立ち戻る力を育ててくれます。『誰も死んだことがないから分からないけれど、死後の世界はある。今の自分ではなくなるだろうけれど、もし私が死んだらすぐ、必ずまいにだけ分かるメッセージを残すから。』と、そう約束した祖母死去の知らせに、まいは二年ぶりにあの家を訪ねます。窓ガラスに書かれたメッセージの言葉は・・・。ここで不覚にも落涙。いい話です。凛とした祖母の生き方が好みです。ああいう風に歳をとりたいものです。
17.7.26
「セブンスタワー(1)光と影」ガース・ニクス/西本かおる訳(小学館)2003.4 ★☆☆☆☆
一応ファンタジーです。七つの塔の中に築かれた厳然たる階級社会に生まれた少年・タルが、病身の母・行方不明の父に代わり、家族を助けるために秘石「サンストーン」を求めて冒険の旅に出る。タイムリミットは2ヵ月。何もないはずの塔の外の氷原には、別な社会体制を持つ人々が住んでいた・・・。
子供向けだから、固いことをいってはいけないんですが、大人の読書に耐えることはできません。小一時間もあれば読み飛ばせる軽さです。世界観や設定自体がどこかで聞いたような印象がある。閉鎖的な世界で理不尽な扱いに憤り、自由を求める純真で正義感の強い少年。それを助ける使い魔的な影・シャドガー。謎に満ちた女戦士、主人公の道連れとなる気も腕も強い少女との間の反発。父の行方不明の影にちらつく曰くありげな上級勢力の暗躍。なんとなく先が見えてしまいます。
全7巻、でも、続きは読まないな。
17.5.29
「だれかののぞむもの」岡田淳(理論社)2005.2 ★★★★☆
こそあどの森シリーズの最新刊。なかなか切ない話です。森の住人たちは相変わらずのマイペースでした。いつもは影の薄いスキッパーが、今回はいい感じで描かれていました。
さて、今回のメインは「フー」と言う謎の生きもの。「フー」は人の心を読んで、その人の望むものに変身できるという力を持っている。それは人にとって、とても望ましいことだから、フーはいつも変身していることになり、そのために本当の自分を失くしてしまうのです。こそあどの森にやってきたフーもまた、そうして自分を見失ったフーです。
森の住人たちは、それぞれ自分の望みを叶えてくれる人に出会いますが、実はそれがフーなのでした。そのことに気付いたみんなは、一生懸命考えて、フーが自分を取り戻せるようにと、知恵を絞ります。、結局フーの本当の姿は誰にも分からないままですが、最後に、スキッパーのためにホタルギツネに変身するあたりは、本当に胸が痛みました。また、 森の住民が出会う望みのものの姿の中では、ギーコさんと人形のエピソードが好きです。出会いには別れが付きものだけれど、ちゃんと別れることの大事さを教えてくれる気がしました。
それにしても、この話もまた、「自分ってなに?」と言う問いが基調となっています。岡田淳の作品の共通テーマといってよいかもしれませんね。
17.5.20
「蒼路の旅人」上橋奈穂子(偕成社)2005.5 ★★★★☆
守り人・旅人シリーズの最新刊。今回の主人公はチャグム皇太子です。補足すると……このシリーズは、新ヨゴ皇国とその周辺の国を舞台としたファンタジー小説。時代的には王政がしかれる中世で、呪術や聖獣も登場。ナユグと呼ばれる異世界とサグと呼ばれる現世を行き来できる不遇の皇太子チャグムが主人公の旅人篇(挿絵・佐竹美保)と、諸国を遍歴しながら信念を貫くすご腕の女用心棒バルサが主人公の守り人篇(挿絵・二木真紀子)で構成されています。既刊6冊、どれも高水準の作品群です。
さてこの「蒼路の旅人」ですが、チャグムと父王との対立が更に鮮明になっています。その結果、チャグムは罠と知りながらサンガル王国へと船出します。途中敬愛する祖父トーサ提督を亡くし、単身人質となって宿敵タルシュ帝国に送られる旅が中心です。私のお気に入りの星読博士シュガはほとんど登場しない代わりに、導き手の役割としてわけありの青年ヒュウゴが深く関わってきます。このシリーズここまで噂でしか現れなかったタルシュ帝国の威容もさることながら、(チャグムにとってはおそらく宿敵となるであろう)タルシュのラウル王子との駆け引きのシーン野緊迫感はさすがですね。チャグムが窮地に立ったときに心の支えとなるバルサやシュガとの思い出も、シリーズ読者には、おなじみの出来事。単体で読んでも大丈夫な読みきり形式とはいえ、やはり続けて読むのが一番。
様々な苦難を通して主人公が少しずつ成長していく、正統派のファンタジー小説ですから、読後感も爽やかです。(ダレン・シャンのような「それはないだろう!」という突っ込みもいりません。)今回の目玉は、なんといってもヒュウゴ&ラウル王子でしょう。表面上は服従を誓いながら、祖国・旧ヨゴの独立を企てる熱い男ヒュウゴVSヒュウゴの能力を認めながらもその本心に疑いを持つラウル王子。彼は生まれながらの帝王とでもいえる冷徹・有能かつ豪胆な男です。そして、この二人の「大人」に挟まれたチャグムの理想に燃える一本気な若さは、彼ら二人を知らず知らず感化していくのです。
ただ、今回はチャグムが身投げを装って海へと飛び込み、ラウル王子の目を盗んで、密かにロタへ同盟を求めに行くところで終わっているので、早く続きを読みたい気分です。
17.5.5
「くらのかみ」小野不由美(講談社) ★★★☆☆
本の面白さの復権を目指す「講談社ミステリーランド」の第一期に出版された作品。作者は「十二国記」の小野不由美です。挿絵が(なぜか)「だれも知らない小さな国」の村上勉。なんかミスマッチ?
座敷童子を含めた5人の少年たちが、本家の財産を巡る殺人未遂の謎に取り組む、という内容。ちゃんと振り仮名も打ってあるし、登場する子どもたちも、実際にいそうなリアルさで描かれている。女の子だって女の子言葉は使わないし、妙に知識があったり、案外さめた発言をしたり。現実的に考えて行動するところが いい感じ。
肝心の謎解きはというと、登場人物がかなり多いので、分かりにくい。手書きの挿絵(探偵メモ)にまとめてあるので、それを手がかりに文章を読み直した部分もありましたね。「物語の復権」というか、「結構てだれの文章読み」のほうが面白く感じるのでは?
17.3.10
「ヒルベルという子がいた」ペーター=ヘルトリング/上田真而子(偕成社) ★★☆☆☆
ドイツの物語。主人公の名前、ヒルベルは「混乱した脳」という意味のあだ名です。脳に障害があって、「普通」の子どものような筋道だった行動ができずに、追い詰められていく子どもの話です。淡々とした語り口で、ヒルベルとその周囲の人々の行動を描いていきます。
ヒルベルを可愛がっているマイヤー先生は、若いけれど子どもの目線で者を考えられる人です。ヒルベルを嫌っているショッペンシュテッヒャー夫妻は、子どもを管理的に扱う大人の代表でしょう。ヒルベルと夫妻は、全く相容れることはありませんが、解説によると、「たとえ悪意からであろうと、ヒルベルに対し本気で感情をぶつける夫妻のかかわり方は、見せ掛けの善意で上っ面だけ接するより、よほど彼のためによい。」らしいです。なるほど。彼の主治医の先生は、彼のことを理解し大事にしてくれます。ヒルベルはいつか先生の養子になれるのでは、と頑張りますが、先生には既に3人の養子賀あり、ヒルベルを引き取ることはできません。それを理解したヒルベルのそっけない後姿には心を打たれました。
世の中には、本気で大切にされる必要のある子どもが、それが十分でないばかりに自ら道を外れたり、人生から降りてしまったりする例が多くあります。このヒルベルもそういう子どもの一人として、最後には病院に収容されてしまいます。ヒルベルに救いの手が差し伸べられることはなかったのです。しかし、誰もが自分の生活と家族で手一杯のこの時代、献身的に他者を救えるだけの「余裕」がる人間はどれだけいるのでしょう。日々子どもたちと接している教師でも、自分なりにいろいろ手を尽くしても相手に届かないことが多々あります。そんなとき最後には「もういい、この子の人生に責任を負うのは、結局のところは親であり本人なのだ。二年(一年)経ったら担任でなくなる私たちには、これ以上のことはできない。」とある種の諦念で、自分の中でおしまいにすることがります。現実は、金八先生やゴクセンのヤンクミのようなわけにはいかないのです。
読み終わって、果たしてこの物語のメッセージが今の子どもたちに届くのだろうかと、とても不安になりました。
17.3.6
「バッテリーY」あさのあつこ(教育画劇) ★★★★★
スポ根物の新定番もいよいよ完結です。巧と門脇の対決に至るまでの短い時間を、描いています。おちゃらけも極まれりといった吉貞、脇役から急浮上して、かなり大きな役割を果たしています。私のお気に入りの瑞垣のひねくれたプライドも健在。新田東中の元キャプテン海音寺との微妙にずれた会話が、実は瑞垣にとって自分を見つめ直す苦い薬でもあるようです。
門脇に対する瑞垣の深いコンプレックスに対し、作者は門脇こそ「瑞垣には勝てない。」と思っていたという隠し球を出してきました。完結したシリーズのその後を、どう想像するかは(巧と門脇の対決の結果を含めて)読者にゆだねられています。将来の大打者・門脇に勝ってほしい気もするし、巧は孤高のヒーローであり続けてほしい。瑞垣を自己否定のスパイラルから救い出してほしいけれど、それをするのは門脇でいいのか、海音寺じゃあないのか。様々な疑問を含みつつの完結です。
このシリーズ、本当に楽しませてもらいました。侮るなかれ、児童小説。
17.2.1
「狐笛のかなた」上橋菜穂子(理論社 ) ★★★★☆
守人シリーズの作者の書き下ろし。呪者の血を引く娘・小夜と、使い魔の霊狐・野火、領主の隠し子・小春丸との運命の出会いから始まる物語。幻想的なラストシーンに至るまで、一気に読ませます。さすがに名手です。
この作品でも、カミガミや渡来人、呪術といった上橋ワールドではおなじみのキイワードが出てきます。凛とした心根の少女、優しく強い少年、導き手たる思慮深い大人という組み合わせもお馴染みのもの。舞台は中世日本、領地争いの末に憎みあう領主兄弟の争いに巻き込まれていく中で、人の生き方や大切なものために命を懸けて戦う小夜と野火が、魅力的です。それぞれの悩みや惑い、恐れも自然で、芯の強いものなればこその葛藤もあります。もし自分だったら、と言う置き換えができないほど特殊な能力を持った二人だけに、映画を見るような面白さでした。
敵味方の立場に身を置く二人ながら、己の思いに正直に生きることは、そういう外的な役割を捨てて選んだ行動は、命をかけて友情を守るというもの。それを包み込んで描かれる、梅が枝屋敷の穏やかな暮らしや若桜野の美しい風景が素敵です。特にお気に入りは、使い魔・野火の仲間である霊狐・玉緒。名の通りの美貌の持ち主で霊力もにも優れ情にも厚い。冷笑的な言辞を弄しながらも、弟分の野火のことをそれとなく気遣い守ってくれる。その上、野火を想う小夜の気持ちを利用し、生殺与奪の狐笛を握って自分を従わせる「主さま」の裏をかこうとするしたたかさもある。カッコいいですね。アニメ犬夜叉に出てくる神楽(いやいやながら奈落に操られつつ、なんとかその手から逃れようと画策する)に共通するものがあります。こういう魅力的な脇がいて、生き生きしているから面白いんだろうな。
16.12.9
「Love You Forever」ロバート・マンチ/乃木りか・訳(岩崎書店 ) ★★★★☆
臙脂の背に紺色の表紙、金字のタイトルと小さな挿絵。布装丁の端正な造りの絵本です。お友達が子供たちに読み聞かせしているのを一緒に聞いて・・・、泣いてしまいました。この本は、親になったものにしか分からないかもしれないと思いました。
赤ちゃんが誕生したとき、お母さんは歌います。
アイ・ラブ・ユー いつまでも
アイ・ラブ・ユー どんなときも
わたしが いきている かぎり
あなたは ずっと わたしのあかちゃん
子どもは次第に大きくなります。わけなしの2歳、やんちゃな9歳、自分勝手なティーンエイジャー、一人前の大人に。でもお母さんにとってはいつまでも可愛いあかちゃん。夜な夜な眠った息子を抱っこして子守唄を歌います。やがて年老いた母を抱っこして息子が歌います。
アイ・ラブ・ユー いつまでも
アイ・ラブ・ユー どんなときも
わたしが いきている かぎり
あなたは ずっと わたしのおかあさん
そしてまた、自分の子どもを抱っこして息子が歌います。
アイ・ラブ・ユー いつまでも
アイ・ラブ・ユー どんなときも
わたしが いきている かぎり
あなたは ずっと わたしのあかちゃん
命の連鎖の永遠を感じさせる一冊です。付録としてこの詩二曲をつけたCDが付いています。とても清らかな歌声で、心に沁み入るようです。挿絵は梅田俊作。子守唄を歌うシーンの色合いが幻想的で美しいです。この本を読み聞かせた彼女は「私の宝物。」と言っていましたが、その気持ち分かるなあ。
16.10.25
読書感想画課題図書シリーズ2
今回は低学年の課題図書です。
なんといっても、あの江國香織画約したというから、期待しました。・・・。低学年にはちと厳しいかな。話自体は結構楽しいし、江も明るく定員ですが、訳が難しい。10歳以下の子どもの語彙にはないコトバが多すぎ利器がします。私のクラスで読み聞かせしたけれど、反応はあんまり良くありませんでした。絵を読むのは楽しいみたいですから、感想画の課題としてはお勧めできない気がしますね。
分かりやすいです。文章が単純な分、音読には厳しいものがありましたが(苦)。迷子の子犬も見つかったし、めでたしめでたし。まあ、かわいいんじゃないの?という感じ。
主人公のマリちゃんの気持ちがとても自然で、子どもたちは自分に重ねて読むことができる本です。絵も楽しい。途中にアフリカゾウとアジアゾウの違いの説明も入っていて、このあたりも子どもたちの知識欲を刺激するらしく、短い部分なのに注目されていました。だんだん大きくなっていく体と心について、素直にそうだな、と思わせてくれます。
「しあわせいっぱい荘二やってきたワニ」アーシュラ・ウィリアムズ/吉恭太・訳(福音館書店)★★★☆☆
奇想天外な話です。ワニに飲み込まれたミネアポリスさんの元気なことといったら。あの手この手で救い出そうとするジョニーもタイヘンですね。次はどうなることやら、わくわくします。その間、食事やトイレはどうしてたの?という素朴な疑問は、この際気にしないのがいいでしょう。絵は描きやすそうです。
またやってきました、読書感想画のシーズン。今回は高学年の課題図書です。
同じ苗字・大杉を持つ少年、翔と翼は親友同士。でも、5年になったとき、翼が四国へ引っ越してしまう。ほんの4ヶ月の間に二人の間に溝ができたような不安を覚えた翔は、家で同然にして、サンライズエクスプレス号に飛び乗る、翼に会うために。列車の旅の途中で出会ういろんな人々。集団就職列車に乗って上京したおじさん、レアカードを巻き上げようとする小学生、親切なお兄さん。翼との友情の復活より、エピソードのほうが長かったりする。ストーリーとしては淡々と進むけれど、感想画は描き安いだろうな。
アメリカの現代の中学生たちの暮らし方が分かる話。母親の一方的な言いつけで、中2の夏休みを「午前中はフランス語教室・午後はベビーシッター・テレビやゲームは禁止・年相応の(難しい)本を読む」と決められてしまったジュリアス君のひと夏の話です。どこの国でも、子どもはタイヘンだね。でも、「僕は駄目な奴」と自分でレッテルを張ってるジュリアス君、なかなかイイヤツなんです。確かにドジだけど。どちらかというと脱力系で、でも、結構自我がしっかりある。母親に認めてもらえなくて、がっかりする毎日の微妙な心理も、よく書けています。ハッピーエンドって言うのも、いいですね。
読みやすいですね。話のテンポが早い。児童向けだからか詳細は省かれているし、小さな起承転結があって、次々読めます。感想画も描き安そうです。獣の心が読める主人公二人と、善王の守り神たる白い狼、望みを叶える青い珠の運命のドラマです。ファンタジイ入門としても、まずまずだと思いました。
「花火師リーラと火の魔王」フィリップ・ブルマン/なかがわちひろ・訳(ポプラ社)★★☆☆☆
イギリスの作家の話なんだけれど、舞台はちょっと前の東南アジアって感じ。王様、精霊、魔王、話をするゾウなどが出てくるから、ファンタジーなんだろうなあ。絵を描くにはいい話かもしれない。登場人物ではランバシおじさんというのがいて、手下とともに盗賊や食堂やと、自分に合った仕事を求めてバカなことをするお笑いキャラ。でも、憎めなくて個人的には好きです。主人公のリーラは目標に向かって一直線の女の子でパワフルです。作者はストーリー展開の重きを置いて、人物造形なんかは気にしてないんだろうなあ。
「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団・上下」J・K・ローリング/松岡佑子訳(静山社)★☆☆☆☆
一応ベストセラーですから、読みましたよ。上・下で1,362ページ、4,200円ってのは、かなりですよね。でも、これをなぜ今読み終わってるかというと、流し読みできるからなんですね。
素敵だったはずのシリウスは全然さまにならないし、期待のビルもほとんど出てこない。チョウ・チャンも試合の時のかっこよさは影を潜めて、ただのおバカになっちゃてるし。双子も下になってようやく多少まともになるけど、上では、「いいかんげにしろ!」といいたくなります。マルフォイたちの差別的言動は限りなく下劣で、読んでて不愉快になります。でも、何より信じられないのは、ダンブルドアやハリーに対する周囲の人たち(魔法使い)の態度です。夏休みの間の流言蜚語に惑わされて、大半があからさまな軽侮を抱くとは、あまりに安直な設定にあきれました。みんな4年も寝食を供にしているのですよ?イギリス人には、その程度の付き合いが普通なのかな。紳士の国のはずなのに品性を疑います。こういう集団的でヒステリックな侮蔑、仏教国では考えられないなあ。出てくる魔法関係の品がおどろおどろしいのは我慢するにしても、敵役のドローレス・アンブリッジの描写のしつこさにも辟易しました。「がま蛙のような微笑」には食傷します。
世間の人気がどうであろうと、私はこういう単純化された人間関係を楽しむにはトシをとりすぎたということでしょう。
訳者後書きの絶賛文も、きっとファンの人には同感なんだろうけどねえ。映画のほうがきっと、まだ面白いんだろうな。
あえて探すなら、読みどころはスネイプ先生とハリーの父ジェームズが敵対関係であった事実の断片が明らかになった件。ここのところは、ハリーの気持ちに同調できました。スネイプ、悪くないし、ハリーの母リリーはハーマイオニーみたいだし。また最終場面でハリーがダンブルドア校長と話すときの心の動きも至極まっとうで、とても納得できました。
「大掴源氏物語 まろ、ん?」小泉吉宏(幻冬社)★★★★☆
本の帯を引用しますと「1帖8コマ漫画でよくわかる抱腹絶倒の『源氏物語』全54帖。これ一冊で『源氏物語』全部を読んだ気になれる!かんたん!かわいい!おもしろい!」確かにその通り。
作者の小泉吉宏は「シッタカブッタ」で有名ですよね。この本が出版されたとき(2001)は、天邪鬼に手にとりもしなかったのですが、やはり面白かったです。単純化された絵柄ながら、当時の風情も良く伝えているし、要所に挟み込まれたエピソードも、理解を助けてくれます。特に源氏の血筋の顔を栗で、頭の中将の血筋の顔をソラマメで表現したあたり、とっても分かりやすい。
『源氏物語』の現代語版としては、大和和紀の「あさきゆめみし」や橋本治の「窯変源氏物語」が有名ですが、これもまた入門書としてなかなかのものだと思いました。
「数の悪魔・・・算数・数学が楽しくなる12夜」エンツェンスベルガー/丘沢静也訳 (晶文社) ★★☆☆☆
コレは面白いのか面白くないのか、よく分かりませんでした。1・0・素数・無理数と言った数学の基本概念からフィボナッチ数・無限と収束・オイラーの公式と言った高等数学の理論までを、(なんと)小中学生向けに書いた本なのです。
絵がいいですね。ベルナーというドイツの画家ですが、日本なら、さしずめ和田誠。結構端正なカラーの挿絵を見ているだけで、いい気分。でも、内容は……私は読み返さないと分かりませんでした。この本、きっと理系の人はすごくはまるんじゃないかなあ。読み終えた今でも、フィボナッチ数の不思議さはなんとなく分かったものの、「すごい!おもしろい!」とは思えませんでした。根っからの文系の私。この本を『とっても面白い』と薦めてくれた娘は、やっぱり理系なんでしょうね。
16.6.20
「精霊の木」上橋菜穂子(偕成社) ★★★★★
守人シリーズの上橋さんのデビュー作。既に文化人類学者としての滅ぼされた文明への悲しみと「先進国」への怒りが色濃く出ています。
SF仕立てで、殖民惑星が舞台。滅びかけた先住民族の血を受け継ぎ、シャーマンとしての力が目覚めた少女リシアと、彼女を助ける従兄弟の少年シンの冒険物語です。抑圧する側の政府役人、二人を追跡するアンドロイドなどは、ややステレオタイプですが、その分、分かりやすい。
作中に夢見の能力を持つリシアが見る、先住民ロシュナールの過去の人生の挿話が魅力的です。こういう入れ子型の物語は、挿話が重層的に響きあって、大団円へとなだれ込む感じがいいですね。
16.5.26
「盗まれた記憶の博物館」ラルフ・イーザウ/酒寄進一訳(あすなろ書房) ★★★★★
ネシャン・サーガのラルフ・イーザウの作品。上下で800ページほどですから、前作よりは短い。その分構成が密で、面白いです。中東の歴史に謎解きの要素も絡んで、どこからが創作なのか、歴史的事実との区別がつかない。よく出来た話です。
主人公は14歳の双子の姉弟。異世界クワニシアに入った弟と、現実世界に残った姉の話が並行して語られます。お互いに補い合いながら、人々の記憶を思いのままに操ろうとする独裁者クセハーノから、世界を救うという筋立てです。人物の奥行きは(何しろ主人公たちが14歳なので)それほどでもないのですが、こういうよく出来た仕掛けの話は、大好きなんですね。
作者は本国ドイツでは「エンデの再来」と言われているそうですが、確かに似ています。記憶を盗む、という設定は「モモ」と同じ。大切なものを忘れることで本質が失われると言う考え方は「果てしない物語」に通じます。根底に正義感が感じられるのも同じ。異世界では「物」が口をきき、動かないものに助けられる。ファンタジーの王道ですね。
実はこの本と並行して内田康夫の「十三の冥府」も読んだんですが、こちらは・・・・。何で読むんだろうなあ、読後感はゼロなのに。
16.4.4
「キノの旅」時雨沢(しぐさわ)恵一(メディアワークス) ★★★★☆
電撃文庫のライトノベルスです。アニメやゲームにもなっているから、結構有名かも。イラストを描く黒星紅白(←ふざけたネーミングだこと)の絵がかわいいですね。今は2巻を読み終わったんですが、このまま続けて7巻まで読もうかなと思っています。
短編集ですから、気軽に手にできます。キノという旅人と言葉を話すモトラド(バイク)のエルメスが主人公です。異世界物といっていいかな。この世界では小国家が乱立していて、それぞれが特徴的なお国柄を持っている。そこをキノたちが巡礼のように訪れ、3日間だけ滞在するんだけれど、その間の出来事が淡々と綴られていきます。その国の政治形態は、現代社会にみられるゆがみを拡大した感じで、いくらなんでもそれはないよなあ、と突っ込みたくなる国ばっかりといっていい。友人には「単純すぎてつまらない。子供向けね。」というものもいるんですが、でも、です。これくらい単純化してあると、すごく分かりやすいじゃないですか。人生経験の少ない子供とか、深読みの苦手な大人とか、気楽に読みたい本好きとか、いろんな人がいるわけだし。
こういうある種啓蒙的な作品は、分かりやすいのが一番。作者がニュートラルな立場に立っていて筆致が淡白なので説教臭さが少ないのも魅力かな。これからも是非そのスタンスを崩さないでいてほしいものです。「ゴーマニズム宣言」の小林よしのりみたいに変に意気込まれるなんてことはないと思いますが。
16.4.2
「アリーテ姫の冒険」ダイアナ・コールス/グループ ウイメンス・ブレイス訳(学陽書房) ★★★☆☆
フェミニズムの童話ですね。『白雪姫や眠れる森の美女のような「待っていれば白馬の王子様がシアワセを持ってきてくれる、という嘘八百の御伽噺で、女の子の自立を妨げ、男の子に男尊女卑を教え続けてきた世の中に現れた、自分の手と知恵で運命を切り開くお姫様の話』です。
こう書くと、いかにもお説教臭いけれど(実際、お説教臭い部分もあるけれど)、案外面白いです。主人公のアリーテ姫は賢く育ったんですが、父王は「賢い妻を求める男などこの世にいるわけがない。女は優しくかわいいのがいいんだ。」と言ってはばからない。求婚者も顔と家柄はいいけれど、頭の中は空っぽの金持ちばかり。アリーテ姫は全然気に入りません。でも、王は宝石に目が眩んで、悪い魔法使いと無理に結婚させます。しかし、姫は三つの難問を騎士とは違ったやり方で解決し、自由を手に入れます。そのやり方が、いかにもフェミニズム。力で強引に押し通そうとする男が「北風」なら、「太陽」のように行動します。女なら、そうそう、という感じでしょうか。
顔だけの能なし娘が偶然に手に入れた幸福物語とは一味違った御伽噺です。「みにくいお姫様」も面白かったけれど、自立した魅力的なお姫様像としては、まあ合格です。
16.1.13
「スカーレット・ウィザード@A」茅田砂胡(中央公論社) ★★☆☆☆
デルフィニア戦記の作者の別のシリーズ。設定は宇宙物。S・Fと思って読むとツッコミどころ満載。こちらもかなり読みやすいです。
主人公の女性が男言葉で、並外れて強い点、相手の男が美貌で強く逞しく、一匹狼的な独立心を持つ点など、前作とオーバーラップするところがたくさんあります。一作読んだだけでは、取り合えずの危機は回避されても、根本的なハードルはさほど解決してないところも、同趣向です。物語ははらはらドキドキで、描写も上手い。作者の理想とするカップルの対等なパートナーシップのあり方は、よく伝わってきます。惜しむらくは、主人公たちがスーパーマン過ぎて、感情移入はまずできない点ですね。でも、気分転換にはもってこいのお話です。
15.11.23
「デルフィニア戦記・5〜18巻」茅田砂胡(中央公論社) ★★★★☆
全18巻、読破しました。かなり読みやすいとはいえ、一気に18巻は、仕事をもつ身にはきつかったですね。でも、最後はほとんど斜め読み。だって、読みやすいんだもの。(17巻より先に間違えて18巻を読み始めたんだけれど、184ページまでそのことに気付かなかったくらいです。ということは、各巻に、巧みに前号までのあらすじが入っているのか?エピソードの書き込み部分は読まなくてもOKということなのか?謎ですね。実は前にも1巻飛ばして読み、中ほどで???と思って戻ったことが・・・・。恐るべしデルフィニア。でも、18巻を緻密に組み立てて、そこに披瀝される作者の倫理観をクサく感じさせない筆力はさすがに人気作家です。
またやってきました、読書感想画のシーズン。今回は低学年の課題図書です。
海に行ったキー君のおへそに隠れていたカニとキー君は友達になります。低学年向けの本って、どうしていつでも動物がしゃべるんでしょうね。話せるといいな、と思うからでしょうか。でも、この話は、最後にはキー君の気持ちなど無視して、脱皮したカニが海へ帰っていく。その後も、結構さらりとしていて、オトナの私としては、いい感じでした。変に「別れがつらい」主人公と動物、と言う設定でないのが新鮮です。
色遊びもかねた知識絵本でしょうか。3原色を混ぜて出来る色と、それで描ける世界を無理なく紹介して、最後には色に満ちた世界を絵で表現してあります。でも、結構繊細な絵なので、色のダイナミックさには欠けるかな。ちまちました感じです。
迷子のアンキロサウルスの子がティラノサウルスをお父さんと間違えて、なついてしまう。ティラノサウルスはこの子が可愛くなって、お父さん代わりにいろいろ教えた末、本当の仲間のところへ、返してやる。しみじみ。というストーリーですが、魅力は絵でしょう。所謂ヘタウマ系。稚拙なような大胆なような、よく見ると細部が書き込まれていた、色のバランスもよい。・・・と言うことは、これで読書感想画を描こうと思ったら、カナリ難しそう。子どもしか描けないだろうなあ。
「コブタくんとコヤギさんのおはなし」ヴァーツラフ・チトゥヴルテック/関沢明子・訳(福音館)★☆☆☆☆
食いしん坊のコブタくんと心配性のコヤギさんの共同生活を書いた童話。何故この2人がオトナじゃないのか、という疑問はさておき、いかにも子供向けらしいお話です。一年生に読み聞かせをしたところ、「コブタくんがかわいてクレープになったはなし」が一番人気でした。現実離れしたとんでもなさが受けてるようです。こういうお話を心底楽しめない私は、もう感受性がなくなったのか、この話が私好みでないからなのかは、不明ですね。でも、感想画は書きやすそう。
15.10.18
「デルフィニア戦記・1〜4巻」茅田砂胡(中央公論社) ★★★★★
娘に勧められて読みましたが、面白かった。なーーんにも悩まなくていいの。ただ、ひたすらストーリーを追っかけて、異世界を楽しめばいいの。主人公の「男」実は王位を追われた流浪の青年王と、剛勇かつ知略に優れた異世界の美少女は、文句なしにかっこいい。
主要人物が分かりやすい性格で、いろいろな謀略に揉まれていくんだけど、最終的にはめでたしめでたし。現実の政界のあれやこれやに比べるまでもなく、勧善懲悪に溜飲が下がるなあ。私としては、「タウの自由民」ロビンフッド的反体制の山賊家業の副頭目イヴンが好み。後、美形のナシアスね。(出てくる主要キャラがみーーんな美形ってのが難点か?)敵役のペ−ルゼン侯爵も捨てがたいかも。冷静な策略家で、それなりに理念があって、手段を選ばない野心家。いいかも。
小野不由美の「十二国記」とならんで、「大人の読書に耐えるファンタジー」という評者もいるほどなのも、まあ、頷けるか。登場人物たちの、あけすけな体勢批判や守旧派への皮肉も、単純化されすぎの嫌いはあるものの、その通り。結構長く続くシリーズ物というから、睡眠不足が怖いです。
15.9.29
「光とともに〜自閉症児を抱えて〜1〜4巻」戸部けい子(秋田書店) ★★★★☆
漫画ですが、重い題材を真摯に描いていて、色々考えさせられます。
身近にいる自閉の子たちとは、もちろん違うんだけど、周囲の気持ちの持ち方と言うものの大切さを再認識させられました。自閉症に対する(つまりは障害に対する)誤解や偏見、安易な同情に隠された無意識のトゲにしても、振り返ればわが身への刃。健常者か障害者か、どちらに立場になって行動するか、選択を迫られるのが現実なんだけど、本当は、二者択一ではなく、両方活かせる方法があるはずなんだろうなあ。
でも、つい「普通」のものさしに当てはめようとしてしまう。外界認知のしかたが私達とは異なる自閉っ子は、常にゲーセンの中にいるようなものかもしれない。耳障りな騒音や溢れる色の中でどうしていいか分からず、固まったりパニックを起こしたり。作中でも、母親がわがことの対応に一喜一憂するんだけれども、そのとおりなんだろう。「自閉」という「障害」の状況を知り、対応を探るためにも、たくさんの人に読んでほしい本です。
15.9.16
「だるまちゃんとてんぐちゃん」「だるまちゃんとかみなりちゃん」かこさとし(福音館) ★★★★☆
せっかく武生で「かこさとしの世界」展があるのだから、ということで再読。いや、予想以上の面白さ。
「だるまちゃんとてんぐちゃん」てんぐちゃんの持ち物が羨ましいだるまちゃんは、おとうさんのだるまどんに頼みます。ほしいよ〜。だるまどんが用意してくれた団扇や帽子や履物、花を見て、ひとつひとつ楽しんだもんです。(なんで、ナポレオンの帽子があるんだ??)身近なものを見立てていく面白さ。だるまどんの親ばかぶりもさることながら、だるまちゃんの発想が子どもらしい。
「だるまちゃんとかみなりちゃん」二人のやり取り(ふきだし)が漫画になってる辺り、すごく楽しい。言葉だと長くなるけど、絵なら一発で分かっちゃうもの。かみなりちゃんの住む雲の上の世界は、夢あふれる未来。こんな街だと、きっと子どもは大喜びだろうなあ。何にでも、必ずツノが付いてる、ってのも愛嬌だよね。
15.8.8
「しばわんこの和のこころ1・2」川浦良枝(白泉社) ★★★★☆
雑誌「MOE]に掲載されていた、お得な知識・教養本。可愛い系のイラストに、結構詳しい説明が書き込まれていて、日本の習慣や風俗について、再認識させられます。初めて知ったなあ、ということもあります。
初め、学校図書館に入れようかとも思ったんですが、かわいげな見てくれとは違って、内容は結構大人対象で、漢字も多かったですね。ということで、今は自宅の書棚に収まっています。
15.8.2
「道」ルイス・サッカー/幸田敦子訳(講談社) ★★★☆☆
前作「穴」を読んだ人なら、ツボですね。『少年いかに生くべきか』なんて知ろうとしないこと、自分の中の奥深くに住む〈誰かさん=自分自身〉と疎遠になってはいけないこと、・・・など、いろいろな知恵が書いてあります。
今の世の中、とっても生きにくいから、他人との距離をどう取ったらいいのか、悩むことって多いと思う。そんなとき、この本を読むのはいい。ガラガラヘビやサソリに出くわしたときの対処法なんて、何の役にも立たないんだけど、今の子どもはだれだって、いろんな形の「グリーン・レイク・キャンプ」で生きてるんだから、ぜひ読むといいよ。
え、グリーン・レイク・キャンプが分からないって?そういう人は、前作「穴」を読まないと。これは、★★★★☆のお勧め。今度映画化されるらしいし。ちょっとした誤解から矯正施設、グリーン・レイク・キャンプに入れられちゃったぶつくさ屋の肥満児スタンリー(中学生)が、親友を得て“生還”するまでの物語です。視点が過去と現在を自由に行き来して、張り巡らされた伏線が、あっというどんでん返しで終結するという、実に良く出来た話です。(文章自体は、個人的には、こなれてなくって好きじゃないんだけどね。展開の魅力が・・・。)2作とも割と短くて読みやすいから、OK。
15.6.7
「ゲド戦記T影との戦い」ル=グウィン(岩波書店) ★★☆☆☆
最近新刊が出たと話題になっているので、読み直してみました。とはいっても、初読は(多分)20年も前なので、 すっかり忘れていて、とっても新鮮に読めました。
ル・グウィンといえば『闇の左手』ですよね。後、『辺境の惑星』とか、結構面白かった記憶が。『オルシニア』や『空飛び猫』(←村上春樹訳ということで評判だった)は、個人的にはハズレです。
で、このゲド戦記です。さあ、どうだろうか。傲慢なゲドが影に追われ、追いかける旅の中で、徐々に内省的な高潔さを身に付けてゆく過程など、ハリポタ風のお手軽ファンタジーとは一線を画す本格派といえるかも。敵役ヒスイの出番が少なかったのが、個人的には惜しい。それに話のテンポの緩やかさや情景の書き込みの仕方は、今とはやはりちがうなあ。今はなんだか、映画的になっているものね。そういう意味では、じっくり読めるかも。でも、続きの作品をよむかどうかは、今のところ不明です。
15.2.12
「神の守り人;来訪編・帰還編」上橋菜穂子(偕成社) ★★★★☆
こちらもお待ちかね、守り人シリーズの5巻です。バルサ健在。チャグムもシュガも出てきませんが、タンダは活躍します。前作までが(一応)ハッピーエンドだったけれど、今回は・・・。
戦う相手は、スファル(猟犬)の切れ者シハナですが、彼女がかなりの策士で、結構魅力的かも。きっと、いつか雪辱戦を挑んでくるぞ、という雰囲気ですね。楽しみ。
メインの少女アスラが、バルサの少女時代とだぶって読めます。身のうちに巣食う暴力への渇望と戦って、わが身を喰らおうとするタルハマヤを意思の力で封じ込めたあたり、壮絶です。ただ、30を過ぎた今でも人を殺めつつ生き、人生の意味を見つけられないバルサを描く作者であるから、一時とはいえ死神を身に宿したアスラが目覚めないまま終わるのも止むを得ない結末かもしれません。昏睡するアスラを抱えた兄チキサの行く末を思うと、やるせない感じがします。タンダと暮らせるといいんだけど。
来訪編・帰還編あわせて600ページを超えますが、一気に読めました。(^。^)/
15.2.3
「バッテリー(X)」あさのあつこ(教育画劇) ★★★★☆
お待ちかね、バッテリーの5巻です。巧の生意気さは相変わらずですが、豪とのビミョーな距離感が・・・・。少し大人になった感じです。憎たらしい瑞垣も、門脇をわざと怒らせて殴られてみたりと相変わらずの策士きどりだったけれど、巧の挑発についにキレて、「姫さん⇒原田」となる。そして、新田東対横手の運命の試合は・・・6巻に続くってか?おいおい。
でも、ヒガシ・サワ・ヨシの3人組の会話が絶妙。特にマクドでの掛け合いは最高!このやり取りだけ読んでも、得した気分です。でも、巧と剛の心理描写は微に入り過ぎて、ほとんどBL状態と思えるのは、私だけだろうか・・・。
15.1.30
「指輪物語・旅の仲間上」J・R・R・トールキン/瀬田貞二・田中明子訳(評論社) ★☆☆☆☆
いわずと知れたこの物語、ファンタジーの傑作との呼び声高し。あの「ナルニア国」のルイスに影響を与えたと言うことです。ずーーーと昔、まだ私が、難解な文章や退屈な文章を読破できるだけの気力と知力を持っていたころ、読みましたね。知り合いに借りて再読に挑戦するも、なかなか進まず。間に他の本を読んで気分転換しつつ、ようやく「上」を読みました。映画で言うと、フロドが黒の騎手から逃れて、エルフの国へと川を渡ったところまでです。
とにかく、冗長! 詳しくていいんだけど、話が進まん。文章が美しいんならいいけれど、そうでもないし。私には向かないなあ。「下」を読む気力、あるのか不安・・・・・・。
15.1.15
「ゼニの秘密教えたる」青木雄二(汐文社・青木雄二のジュニアのための『ゼニ学』講座1) ★★★☆☆
ご存知「ナニワ金融道」の青木雄二の案内本。テーマはもちろんお金。全て関西弁です。
歯に衣着せぬ本音本です。ちょっと(かなり?)独断で書いてありますが、内容はすごくマトモで、そうそうその通り! 庶民・ビンボウ人の身になって、理不尽な経済の仕組みを歯切れよく解説してあります。この本、永田町や霞ヶ関の人たちに読んでもらいたいわア。
消費者として知っておくべきことや、悪徳商法の手口もバッチリ書いてあります。大人でも、「やっぱ、サラ金に手ェ出さんとこ」などと再確認できて、いいですよ。
15.1.13
「ビッビ・ボッケンのふしぎ図書館」ヨースタイン・ゴルデル&クラウス・ハーゲルップ/猪苗代英徳訳(日本放送出版協会) ★★★☆☆
ノルウェーの本です。1993年をノルウェーの「図書年」に制定したのを記念して書かれた本で、ノルウェーの小学6年生ニ配布された「読書のすすめ」の本だそうです。
こう書くとなんだか小難しい感じですが、内容は、ミステリー仕立てで、主人公は13歳のベーリットとそのいとこで12歳のニルスの往復書簡が第一部。なぞの女、ビッビ・ボッケンを巡るふしぎな事件に否応なく巻き込まれた(?)二人の探偵活動が、軽妙な会話体で展開されて、ワクワクします。(12歳やそこらでこんな機知あふれた名文がかけるかどうかは別として。)
途中に十進分類表や印刷物の歴史・読書の楽しみ方などがさりげなく散りばめられていて、さすがに「図書年」の本だなあと思わせます。作者の二人はともにノルウェーでは有名な作家らしいです。本好きじゃなくても楽しめるかな。
15.1.3
「ネシャン・サーガ〈3〉裁き司最後の戦い」ラルフ・イーザウ/酒寄進一訳(あすなろ書房) ★★☆☆☆
ネシャンの第3部。これまた、全3作に劣らず分厚いんだわ。566ページ。
私の中でファンタジーの基本は、きっとナルニアシリーズだと思う。それで、ついつい比較しちゃうんだけど、最近のファンタジーって、ほんと、授かり物系だなあ。ここで、ヨナタンは宿敵バール・ハッザトと最後の対決に臨むんだけど、やっぱり頼みの綱は神の力。傲慢を戒める教えに従い、謙虚な心で敵をも許す。これはきっとキリスト教的なんだろう。数々の試練に立ち向かうヨナタンの心は、旅の初めと同じく「全き愛」に貫かれているけれど、ここには深い信仰があり、唯一神へ絶対の信頼がある。だから、ヨナタンは危機にあって、常に天啓のごとくに解決法を悟ることができたのだろうなあ。
不信心な私にはイマイチ分からん。お話としてはすごくスリルがあって面白いよ。HappyEndだし、かっこいいゴエルも生き返ったしね。
14.12.25
「なぞとき美術館」ルーシー・ミルクスウェイト構成/高階絵里加訳(フレーベル館) ★☆☆☆☆
学校図書館にどうかな、と思って読んでみました、その2。クイズ仕立ての絵画案内のビジュアル本です。
取り上げられた画家と絵は、年代順に並べられています。日本ではそれほど著名でない画家もありますね。絵は好きなので、ちょっと並べてみると、
@細密画のファン・デル・ウェイデン「聖ゲオギウスと竜」
Aイタリアの巨匠ボッティチェリ「プリマヴェーラ(春)」
B肖像画家ハンス・ホルバイン(子)「大使たち」
C生活画家ビーテル・ブリューゲル「雪の中の狩人たち(冬)」
D宮廷画家ベラスケス「卵を料理する老女」
E風俗画家ヤン・ステーン「おどる一組の男女」
Fロココの代表フランソワ・ブーシェ「ポンパドゥール公爵夫人の肖像」
G(よく知らないぞ)ジョン・シングルトン・コープリィ「ピアソン少佐の死」
Hラファエル前派ジョン・エヴァット・ミレイ(←好き!)「大工の家のキリスト」
Iアメリカの印象派ウィンスロー・ホーマー「せまりくる霧」
J炎の画家ファン・ゴッホ「アルルの寝室」
K素朴派アンリ・ルソー「サルのいる熱帯の森」
Lポップアートのデヴィッド・ホックニー「青いギターのある自画像」
さて、あなたは何枚の絵を思い浮かべられましたか?私はAFHJの4枚。見れば「ああ、これ知ってるかも。」ってのは@BCEKの5枚。
でも、入門書というよりほんの味見状態。全く絵画を知らない子供たちには面白いのかなあ。私には物足りなさ過ぎ。(って、オトナだもの、当たり前か。(^^ゞ)
14.12.23
「市川染五郎の歌舞伎」小野幸恵(岩崎書店・日本の伝統芸能はおもしろいシリーズ1) ★★★☆☆
学校図書館にどうかな、と思って読んでみました。市川染五郎を案内役にした歌舞伎紹介のビジュアル本です。(彼は松本幸四郎の息子で、松たか子の兄。確かゲームソフトで諸葛孔明のモデルになってた御曹司よね。)けっこうドラマにも出てます子供向きに書いてあるので、写真や説明図が分かりやすくて、歌舞伎についてわかった気がします。へえ、そうなんだ、という感じ。三味線のところで、「(義太夫・長唄・常磐津・清元のどの曲かを)聞き分けるのはちょっとむずかしいが、見台(楽譜を置く台)の形で見分けることができる。」とあったのには感心しました。(ちなみに見台の形は、順に『房がついている』『脚が十字に交叉している』『朱色の蛸足』『台箱の上に一本足』ですって。)
このシリーズ、ほかに落語・狂言(←和泉某でなく野村萬歳というカタイ人選)・雅楽・文楽があるそうです。読むと知識が増えるし、案外いいかも。
14.12.20
「アルテミス・ファウル」オーエン・コルファー/大久保寛・訳(角川書店) ★★★★☆
内容(「MARC」データベースより)
伝説的な犯罪一家に育った12歳の天才少年・アルテミスは、コンピュータを駆使して「妖精の書」を解読、巨万の富を得ようとする。しかし、妖精たたちはハイテクで武装した集団だった!
面白いですね。悪のハリー・ポッターとも言われる主人公、かなりヤなヤツです。けっこうオモシロイ人物がぞろぞろなんだけど、個人的にはボディガードのバトラーがいいなあ。妹思いで、結構ひたむきに主人公を信じて、大男の見かけどおりとっても強い。後半で簡単に死んでしまったときは「そんな〜〜!」と思いましたけど、妖精(エルフ)のホリー大尉(←この人もけっこうな曲者)のヒーリングで生き返った後は、シュワちゃん顔負けのヒーローぶりで、肉体派の面目躍如と言ったところでしょうか。
妖精側の地底警察偵察隊のやりとりも受けますね。こちらは、けっこう大人向きのひねりがきいていて、子供じゃあ、ちょっとニュアンスがわかんないんじゃ?って感じ。3部作ということで、次作を期待したいですね。
14.12.8
「レイチェルと魔導師の誓い」クリフ・マクニッシュ/金原瑞人・訳(理論社) ★★★☆☆
イギリスのファンタジー3部作の最終巻。
相変わらずのジェットコースターぶりです。ハウルのコースターがイメージの奔流なら、レイチェルは極彩色の悪夢といった感じ。前巻で、地球の子供たちを全員、魔法使いにしてしまったマクニッシュ、今回はスペクトルとスリルシーカーという運命で結ばれたペアたちを登場させ、大魔女より更に醜悪で強いグリダとの決戦を盛り上げてくれます。賢い魔導師アルバータス達の悲劇的な運命も明らかになり、エリックの真の役割も破滅すれすれの荒業の中で明らかになるなど、一応「大団円」に相応しい幕切れですね。でも、積み残しも多いから、番外編とか第4巻とかが、「読者の熱望に応えて」登場したりして…。
14.12.7
「ローワンとゼバックの黒い影」エミリー・ロッダ/作馬ゆみこ・訳(理論社) ★★★☆☆
オーストラリアの大人気ファンタジーの第4巻。 相変わらず読みやすい本ですね。さすがに児童書、2時間もかからないんじゃないのかな。
今回もまた自信のないローワン、それでも、責任感と罪の意識から冒険の旅に出る羽目になってしまいます。(毎回のことなんだけどね…。)旅の仲間はお馴染みのメンバー、「旅の人」との混血のアラン・ゼバック生まれで「旅の人」に育てられたジール・水なしでは生きられないマリスの民パーレン・リンの村の魔女シバ(ただし心のみ)。
この作品、いつもながら主人公ローワンより、意地悪なシバのほうに興味がある。この老婆は善玉?悪玉?今回もやたら根性悪な振る舞いばかりしてるくせに、またしても正しい予言の詩で、常にローワン達を窮地から救ってくれる。最後に竜がゼバック達を追い返してくれるあたり、第一巻からのつながりが明確。巻が進むにつれ、もっと色々な謎が少しずつ解けてくるんだろうなあ。
14.12.3
「3びきのかわいいおおかみ」コージーン・トリビザス文/ヘレン・オリセンバリー絵/こだまともこ訳(冨山書房) ★★★★★
絵本です。題名を見て分かるとおり「3匹のこぶた」のパロディです。怪作です。子供に大受け間違いなし!!(大人でも)
3匹のかわいいオオカミが悪い大ブタに家を壊される話。もちろんHappyEndです。原作のような終わり方じゃなく、ほのぼの&めでたしめでたし。
この絵本の魅力は、何といっても『とんでもなく悪い大ブタ』のキャラでしょう。バドミントンや石蹴りをしているかわいいオオカミより、ふてぶてしく人相(豚相)が悪く、ハンマーや電気ドリル、挙句にはダイナマイトまで持ち出すというトンでもないヤツ。魅力的。際限なく「親切」なビーバーやサイもあほらしくなるほどですが、ストーリー展開のおもしろさに、何もかもぶっ飛んでしまいました。
この絵本を紹介してくれたのは、武生市の図書館司書の○ッちゃんです。ありがとう!
14.11.16
「月の森に、カミよ眠れ」上橋菜穂子(偕成社文庫) ★★★☆☆
「守り人」シリーズの作者の11年前の作品。舞台は九州の山中、隼人のムラが大和朝廷に組み込まれていく過程の数日間を取り上げている。とはいえ、登場人物の昔語りを含めると、何十年にも渡る部族の信仰と外来文化との葛藤の歴史となるかもしれない。作者の文化人類学者という側面からの歴史観が色濃く出ている作品です。
物語の終盤までは、淡々とした調子で語られているので、最後の山場に至るまで、自分の視点を誰に沿わせたらいいのか、決めかねる面がありました。『読んでみて。』と渡してくれたのが娘でなかったら、途中で止めていたかも…。でも、ムラを出てからのナガタチの内省は、説得力があリます。タヤタとキシメがもし結ばれていたら、ナガタチがもし飛び込んでこなければ、アツカヤがもし手を出さなかったら。けれど、新しい文明によって一つの文明が滅ぶという歴史の流れは、個人の力で押しとどめることはできないのだから、この物語の結末はやはり、これしかなかったのだろうなあ。
14.11.11
「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」J・K・ローリング・松岡佑子訳(静山社) ★★☆☆☆
注:ネタバレあり。
発売当日に買ったのに、ほったらかし。やっと読みました。 しかしこれは…。確かにおもしろいのかもしれないが、読後感はよくないですね。
ハリーは相変わらず「勇敢で好感の持てる元気な少年」なんだけれど、ここに来て「孤独」とか「嫉妬」とかいう大人の感情を経験します。その上、自分の(多分)ヒロイズムが原因でセドリック・ディゴリ―を無駄死にさせてしまいます。彼の死は、ハリーの一生の悔いになるはず(べき)です。その上、ヴォルデモードは復活するし、ダンブルドアとフィルチは決裂するしで、ひどく暗い結末。かっこよく登場したはずのシリウス・ブラック、君は一体何をしている??次巻以降、嵐のような展開になりそうです。悪との対決が通しテーマなんだから、仕方ないけどね。内容的には、精神的なものを軸に展開するので、あんまり子供向けではないかもしれません。
それにしてもこのシリーズ、善玉悪玉が明確すぎて興ざめです。(例外はスネイプ。)細かいことだけど、聡明なダンブルドアがなぜロックハートやトレローニーのような教師を任命するのか?あからさまにでたらめと悪意の記事を書く記者が一流として通用する魔法界って?マグルを馬鹿にしているとはいえ、あまりにも奇矯な魔法使いたちの振る舞い。マルフォィのような差別主義者が大手を振ってまかり通ることを許す設定は、もしかしたら、現在のイギリス社会の安全たる階級差別への告発なのか??(日本人の私にはわからない暗喩が散りばめられているのだろうけれど。)
そのうち、なぜヴォルデモードが悪に走ったか、マルフォイたちが手下になったか、明らかになるんだろうけど。いずれにせよ、5巻が出ても、買うかどうか迷うところですね。
14.11.3
読書感想画課題図書シリーズ3
課題図書シリーズ最終回です。さて、今回は??
実話に基づいた作品。難病の子の夢をかなえることで、その子に生きる力を持ってもらいたい、というボランティア団体「メイクアウィッシュオブジャパン」の活動を紹介する本。実話の力と、主旨に賛同する作者の思いが伝わってくる内容です。福井県の図書館協議会の推薦図書にも選ばれていますね。
素直に読めば、いい話で、読書感想画も描きやすそうです。課題図書としては悪くないと思います。こういう話が好きな人も多いかも。(メッセージがストレートすぎて、苦手な人もいそう。例えば私…。)やけにできすぎのルミちゃんはご愛嬌?
これは好き。単純にゴリラに対する愛情があふれてます。作者は上野動物園のゴリラ飼育係。決して上手な文章ではないんだろうけれど、読めばみんなゴリラ博士!という感じ。ノンフィクションものはいいなあ。日ごろ手にしないけれど、たまに読むと、大抵ハズレなしです。私も小さいときからこういう本を読んでいれば理系に進んだのか??
14.10.31
読書感想画課題図書シリーズ2
今年の課題図書シリーズ第2弾。前回はHITは3割でした。今回は?
「春がすみ山・・・」と同系列ですね。主人公は子どもで、紫色のワンピースを着たやさしいクマが出てきて、仲良く遊びます。♪ある〜日 森のなか くまさんに出会った〜♪説教くさくはないか。でも、いくら低学年向けとはいえ、日常生活に安易に人語を話す善意のクマがでてくるのって、納得いかん。この話、ホントに10年後に「いい話よね。」となるのかしらん?
ここから高学年対象の課題図書。さすがに、一応のメッセージを感じました。「霧の向こう」「千と千尋」系です。ジコチューの少女が、自ら働かなければ生きていけない世界に紛れ込み、経験を通して成長し、現実に戻っていく。最初に出てくる「口うるさいばあちゃん」が好きです。こういうばあちゃん、大事にせなあかんて!!
ご存知「ルドルフとイッパイアッテナ」シリーズ第3弾。前作が出てから、一体何年がたったのか、ホント久しぶり!あの、ルドルフが(やっぱりちょっと天然が入っています。)知恵をめぐらせて、やっぱり正攻法ではかなわない強敵を見事やっつけます。
でも、このシリーズのよさって、細部のちょいとした会話や独白にあるんだろうなあ。リエちゃんと3年ぶりに再会(?)したのに、お互いに気付かなかったことに対して、リエちゃんを「心の船箪笥」にしまうまでのルドルフの葛藤、なんかしんみりしてしまいます。そういうことって、あるよ。
もちろん、爆笑&ニヤリのシーンもいっぱい。どうして、斉藤洋の作品って、ハズレがないんだろう?才能かなあ、単なるファンの身びいきかなあ。
14.10.23
読書感想画課題図書シリーズ1
やってきました、読書感想画のシーズン。いつもながら思うのですが、選書の基準はどこに??毎回ハズレの多いことといったら…。課題図書だから…なんて信用すると、とんでもないことになる本も紛れ込んでいますね。さて、今年の課題図書は??
これは・・・。確かに子どもだって理不尽な怒られ方に腹が立つことはあるよな。でも。一言も言い返さず、ただ「わたしぜったいあやまらない。悪くないもん。」という意地だけの主人公もも。自分の間違いに気付かず「もうおこってないよ。」と笑う父。自分の言動のせいで誤解されているももに「そうか、そりゃあたいへんだなあ。」で済ます向かいのおじいちゃん。いいんかい、これで?もっと自己主張しろよ、もも。子供の言い分も聞けよ、父。まいた種は刈れよ、じいちゃん。なあなあ主義を子どもに教えるなよ、作者。
これは好き。初めて歯が抜けた男の子の話なんだけど、反応がいかにもありそう。抜けたところにトウモロコシをはさむ・ストローをはさんで飲む・大事にとっておく・・・。こんな子、いるよね。また、それに対する両親もけっこう好き放題言ってて。絵がね、ちょっと見きたないんだけど、味がある。口の中に視点を置いたページ、いいなあ。
「春が、すみ山から」「春霞山から」どっち??後の方でした。いかにも、ですね。きっと子供が喜ぶでしょ?環境保護も入ってるし。善意の人が主人公だし、こぐまもやんちゃでかわいいよね。最後はお約束、「気がつくと誰もいません。どこからか・・・」はい、よ-く分かりました。
14.10.1
「安楽椅子の探偵たち」ハリイ・ケメルマン他・赤木かん子編(ポプラ社) ★★★★☆
「Little Selectionsあなたのための小さな物語」より安楽椅子探偵物のオムニバス集。謎解きの面白さが満喫できます。中でもお薦めはケメルマンの「9マイルは遠すぎる」。ほんと、痛快。冒険ものじゃないんだけど、理詰めでみるみる謎が解けていくのがスゴイ。
この本のよいところは、選者の赤木かん子の解説が愉快なこと。話口調でわかりやすく、もっと呼んでみたいという気にさせてくれます。選ばれた話も、読みやすくて質的にもなかなかのものです。
この「 Little Selectionsあなたのための小さな物語」シリーズ、読書の楽しみのための入門書としては、最適なんじゃないかな。他の巻では、今市子や坂田靖子の漫画まで一緒に入ってたりします。字も大きいし、ルビも振ってあるしで、小学校高学年から、十分楽しめるかな?
14.9.19
「DIVE!!(4)コンクリートドラゴン」森絵都(講談社) ★★★☆☆
いよいよ最終巻。予想通りオリンピックの最終予選会が舞台。知希・要一・飛沫の3人に加えて、要一の父や高ピーなコーチや飛沫の彼女も一人称で登場という、大団円(死語)にふさわしい(?)豪華キャストといえましょうか。
これだけの人物がめまぐるしく登場しても、物語をつつがなく進行させる筆力には感心させられました。(後日、アジア大会の飛び板競技をTVで見たんだけど、なんと解説を聞く前に技の名前が分かったんですねえ。「あっ、これは前逆宙返りニ回半蝦型だぁ!!」なんか、感動…。
でも、4の読後感は・・・やっぱり要一ファンの私としては★三つですね。要一がピンキーと組んでシンクロかい!(しかもピンキーじゃなくラクダだって・・・笑)いやいや、作品としてはこの結末がベストなんだろうけど。ミーハーなもんで。(^^ゞ
14.9.14
「シェ―ファー先生の自然の学校 みみずのカーロ」今泉みね子(合同出版) ★★★★☆
「もし、たくさんの小さな子どもたちが,たくさんの小さな村で,たくさんの小さなことをしたら,世界は変わるだろう。」
南ドイツ/ライン川のほとり、ブドウ畑がひろがる丘のふもとのメルディンゲン小学校には、ゴミ箱が一つしかありません。でも、10年前はクラスに一つずつあったのです。なぜ、この小学校ではこんなにゴミがへったのか、一つ一つの活動を丁寧に紹介しています。ミミズのカーロ君を中心とした総合的な学習を通して、シェーファー先生は根気強く働きかけていきます。少しずつ変わっていく子どもたち、そして、子どもたちの家族に、村の商店に、隣の村に…。小さな取り組みが波紋のように広がっていく様子は奇跡のようです。
「豊かな」「苦労のない」生活に慣れ、自分で考えることなく日常の安逸に流されている私には夢物語?でも、取り上げられた一つ一つ活動は、間違いなく、この地球という星を、環境破壊という死に至る病から救うための処方箋でしょう。(ミミズのカーロ、あぜ道の再生、小川の里親制度、ベニエの垣根、ユーロの活動。)え、なんのことか分からない?是非この本を読んでください。この本を紹介してくださった同じ町内のNさん、ありがとう!!
14.9.11
「DIVE!!(3)SSスペシャル’99」森絵都(講談社) ★★★★☆
予想通り、今回は要一が中心のお話。
ついバッテリーと比較してしまうんだけれど、この要一、巧と似てるところがあるなあ。わがままでジコチューで、隠れた日々の精進の果てに掴んだ力を信じ、既成の権力に屈しない。直感に従って、結局は自分の思い通りに周囲を動かしていく。巧より要一の方が知的で冷静で、同じく純粋。知希・要一・飛沫の三人の中では、やはり要一がいいなあ。(整った容姿という点もミーハ―にはこたえられません。)
今回の見所は、日水連の前原会長と要一との一騎打ちのシーン&日中親善試合男子高飛び込み決勝でしょうか。大化けした知希の大技と要一・飛沫の会話など、臨場感いっぱい。オリンピック出場権を棒に振った試合後の知希のセリフ、「しょげてるんじゃないよ。・・…(4回転半を)あ、飛べるかもって、今日初めて思ったんだ。」これにはグラッときました。でも、NO.1の決め台詞は要一の「前逆宙返り2回半蝦型・・…、名づけて『SSスペシャル’99』をバリバリに決めてシドニーにいきます。」これでしょう。要一ファンなら、必読です。
さてこの「DIVE!!」シリーズ、全4巻とか。これまでの3人が第4巻でからまって、クライマックスのオリンピック代表選考会へと雪崩れ込むんだろうな。ここにきて、「DIVE!!」の評価は(個人的に)急上昇。
14.9.5
「DIVE!!(2)スワンダイブ」森絵都(講談社) ★★☆☆☆
中学生の知希が中心だった第1巻に対し、第2巻は高校生の飛沫が中心。
幻のダイブを残して消えた天才ダイバーの孫である飛沫は、通りすがりのプール客をも魅了する飛び込みの裏に、不治の腰痛という爆弾を抱えていた。観衆の中で飛びたいという渇望と、腰痛という限界があるなら祖父のように不遇な人生を送りたくないという二つの思い。故郷である津軽の自然の中で過ぎる飛沫の夏休みが淡々と(内省的に)描かれていく。最終的には、迷いを吹っ切って飛び込みの世界に戻ってきて、よかった。
前半の飛び込みの種目の説明や採点のし方の解説が、わかりやすくて面白かった。試合の様子もよかったし、飛沫の飛び込みに、隣の遊泳用プールの客が徐々に惹かれていくあたりがいい感じ。でも、後半はスポコンじゃなく心理小説だな。でも、飛沫に感情移入はできなかった。(つい、バッテリーと比べてしまうなあ。)
知希→飛沫と来たからには、次(第3巻)はいよいよ美形キャラ・要一が主人公か?
14.9.3
「DIVE!!(1)前宙返り3回半抱え型」森絵都(講談社) ★★★☆☆
「カラフル」の森絵都の作品。やはり中学生が主人公です。
あさのあつこ「バッテリー」シリーズは野球だけど、こちらは高飛び込み。中心人物は、知希・要一・飛沫(しぶき)の3人です。知り合いに「三人の中のどの子が好き?」と訊かれたのですが、やはりサラブレッド要一かなあ。(主人公はトモです。)日本中の中学生の中で前宙返り3回半抱え型で悩んでるのは自分ひとり、と落ち込むあたり、きっとそうなんだな。なやみなんて、大抵思いっきり個人的で個有で、世の中に一つっきりなのが普通だもの。そして、本質的なところは絶対誰も分かってくれないものなのだから。完璧、スポコン物です。2を読んでもいいかな。
14.8.28
「バッテリー(T〜W)」あさのあつこ(教育画劇) ★★★★★
野球の投手・捕手のバッテリー二人が主人公。
中一ながら、共に中学生離れした実力を持つ二人を中心に物語は展開する。本能的に行動し傲慢でジコチューで大人にも平気で逆らう人付き合いのきらいな投手・原田巧(←書いてみるとマジでひどい性格)と、マジメかつ温厚で人望厚く人の悲しみや痛みに敏感に反応するバランス感覚のとれた捕手(←全くいいヤツだよな)・永倉豪。正反対の二人が「運命的」なキズナの中で、野球を取り巻く「不純なもの」の壁にぶつかり、あがき戦いながら全力で生きていく。その不器用さ・真っ正直さ。鼻持ちならない巧と彼に振り回されているようで実は自分に向き合っている豪に、絶妙のタイミングで登場する「天使」的存在の巧弟・青波(純粋培養・BL系か?笑)。体育会系のことはよく分からない私でも、投球時の高揚感だとか一体感だとかにほれ込んでしまいます。
一気に4巻読んだけど、次はどうなるの?巧と豪のバッテリーは復活してちゃんと門倉と対決するんかーー?瑞垣と吉貞のしゃべくり漫才は、もっと聞かせてくれるんかーー?展西は、ホントに戻ってこんのかーー?(って、オトムライと展西との対決はどうなったんだ??)次が早く読みたい!!
14.8.25
「アブダラと空飛ぶ絨毯」ダイアナ・ウィンジョーンズ/西村醇子・訳(徳間書店) ★★★★☆
「ハウルの動く城」シリーズ2作目。
題名どおりアラビアンナイトを下敷きにした内容です。ラシュプート国の空想家の若き絨毯商人と王女〈夜咲花〉の運命の出会いに、壜の中に閉じ込められたジンニー、悪の手先にされたジン、雲の上の城、盗賊、さらわれた姫の救出劇。こちらも前作と同じくジェットコースター小説です。ただ「超丁寧な言葉遣いで相手に接する」というラシュプート国の風習のため、そのセリフのために切羽詰った場面で間延びするというユーモア感覚が愉快。
いよいよ姫君を救い出すという山場なのに、「あまたの王者たちのまなこに映る望月のような皆々様(←さらわれた姫たちのこと)。」と7行分もの社交辞令を並べたて〈「お若い方、もうたくさん!さっさとおっしゃい」と一喝されたりしている。こういう細部の積み上げが生き生きした世界にしているんだろうな。
肝心の〈?〉ソフィーがはっきり登場するのが270ページ中177ページ目、ハウルが255ページ目、火の悪魔カルシファーにいたっては260ページ目。ここにきてようやく、実は全篇にわたり三人が重要な役割を果していることに気付くんだから、してやられました。そういえば読みながら、??と思う場面がいくつもあったんだよなあ。どうして分からなかったんだろう。この騙された気分を味わうのもまた、読書の楽しみかも。
14.8.23
「魔法使いハウルと火の悪魔」ダイアナ・ウィンジョーンズ/西村醇子・訳(徳間書店) ★★★★☆
名前だけは知っていたファンタジー小説「ハウルの動く城」シリーズ。思い切って(?)読んでみました。
ジェットコースター系です。ヒロインのソフィーが強気で「女の子」らしくない。その上、魔法によりほぼ全篇90歳にも見える老婆の姿のまま。その姿で悪態はつく、金切り声はあげる、汚い駆け引きはする。ヒ―ローはヒーローでいい加減な女たらしの上、臆病ななまけもので何を考えているのかさっぱり分からない。異色の作品です。でも、砂糖菓子風の物語よりはよっぽど面白い。あきさせないし、けっこう伏線も生きてるし。来年ジブリで(多分)映画化されるってのもうなずけるなあ。シリーズ二作目も読んでみよう。
細部を組み立てておきながらあっさりと書き進んで、「ダレン・シャンならこのページだけで一章は費やすかも?」という早さ。アイデアの洪水という点、読んでいて、ダン・シモンズの「ハイペリオン」を思い出しました。(←この作品、すごく分厚いんだけど、SF好きなら外せない面白さ。エンディミオンと合わせて4部作、決して後悔させません。って売り子かい!)
14.8.14
「放課後の時間割り」岡田淳(偕成社) ★★★★☆
こそあどの森シリーズが有名な岡田淳。図工の先生です。勤務先の小学校の給食の時間に、校内放送で流したお話が基になっているという短編集。
作者の分身のような『図工の先生』に、学校の屋根裏に住みついていて言葉を話せる『学校ねずみ』が聞かせる不思議な話です。岡田淳のごく初期の作品らしく、いろんな傾向のストーリーが次々と出てきて、とても面白かった。まだメッセージが明確ではない分、抵抗なく読めます。とはいえ、個人的には、「長靴をはいたねずみ」のお話が一番好き。劣等生だった少年が「学校ねずみ」の助けで優等生に成長するんだけど、結局優等生が自分のガラじゃないって気付き、「学校ねずみ」の補習を卒業する、というお話です。←なんだか「選ばなかった冒険」や「扉の向こうの物語」のテーマと共通する感じがあるなあ。
語り手である「学校ねずみ」が、実は最後の一匹であることが切ないんですが、ラストにちょっと希望の光がさして、うれしかった。
14.8.5
「レイチェルと魔法の匂い」クリフ・マクニッシュ/金原瑞人・訳(理論社) ★★☆☆☆
というわけで(↓14.8.3)イギリスのファンタジー3部作の第二巻。
今回は、第一巻で死んだ魔女ドラグウェナの母&妹が登場。舞台は地球。魔女たちはこっそりと地球上の魔力の強い子どもたちをさらって、レイチェル達を滅ぼそうと企んでくる。そのさらわれた子どもたちが、なんだか切ない。レイチェルみたいに<善>に立たない(立てない)分、人間らしくって。それぞれの心の弱さにつけこまれてるあたり、他人事じゃない感じ。それにしても、エピローグで子どもたちの魔法の封印が解かれて、世界中に魔法が満ち溢れるところ、ここまでしちゃっていいの?という気もします。現在の地球を舞台にして始まった物語が、これではすっかりパラレルになってしまった。ということは、第三巻では、逃げ出した魔女軍団VS地球の魔法使いの子ども軍団の最終の戦い→大団円ってことになるのかも。位置付けとしては、守人>ハリー>ローワン>ネシャン>ダレン・シャンのダレンシャンくらいに下げとこう。
14.8.3
「レイチェルと滅びの呪文」クリフ・マクニッシュ/金原瑞人・訳(理論社) ★★★☆☆
イギリスのファンタジー3部作の第一巻。
ハリーポッター以降、やたらファンタジーがもてはやされているけれど、これはなかなか楽しめました。個人的には、守人>ハリー>ローワン>ネシャン>ダレン・シャンの、ローワン付近に位置するかな。意思の強いレイチェルと無邪気なエリックと(後半ハンサムになった)モルぺスのトリオも、よく描かれている。ジェットコースター的に起こる出来事も、後になればちゃんと伏線になっているのもうれしい感じ。第一巻の舞台は、醜悪な魔女ドラグウェナの支配する暗黒の星イスレア。不気味さ満点。映画にすると暗いばっかりで気が滅入りそうだけど。レイチェルの魔法がレベルアップしていく過程も、納得できる展開です。次も読もうかな。