読書意欲を高める活動「本棚カード&スペシャル」
本校の図書館では、図書ごとの貸し出しカードは使用せずに、学校内で読む本については代本板をはさみ、家に持って帰る場合には個人カードをクラスごとのカード入れに置いておく。この個人カードには、本の書名が書き込めるようになっているので、個人の読書記録にもなっている。しかし、書名のみでは内容や感想の記録としては不十分なので、「本棚カード」を作成し、読書記録とすることにした。対象学年は4〜6年とした。この「本棚カード」のねらいは次の3点である。
1 自分の読書経験を客観的に見つめさせる。
2 個人カードの中から児童に合った情報を紹介する。
3 読書週間をきっかけに、各自の読書対象の広がりを促す。
1 自分の読書経験を客観的に見つめさせる。
読書には、読むことを通して日常の生活では経験し得ない別の世界を知るという側面がある。そして、単に読むだけではなく、新しく得たものを自分のものとしていくためには読書記録や感想文を書くことが、とても大切である。しかし、たいていの場合、子供たちは自分の楽しみとして読書をしているので、その読書について感想などを書くとなると、今までのような単純な楽しみ方はできにくいと思われる。それで、日常的な記録はできるだけ簡単なものにしたいと思った。
そこで今回は、本の感想を記録する方法として、時間・笑い・感動・知識の四つの項目について、星印(☆)を塗る形式の用紙を作った。(時間 ……読むのに要した時間を記録する。)(笑い・感動・知識 ……読んだ本の傾向を記録する。)
子供たちがこれらの項目を記入するときには、「この本のどこがおもしろかったんだろう」、「新しくわかったのは何だったのだろう」、「じーんときたかな」などなど、自然に自分の読書経験を客観的に見なおすことになる。それを「ぬり絵」という遊び的な形で表すことで抵抗感を軽くし、言葉で記入する欄は小さくした。
児童の反応:カードの記入法が分かった児童は積極的に活用した。
従来のカードとは異なるやりかたであったため、記入のしかたがよく分からない児童もいたが、はじめは億劫がっていた子も、単に色を塗ればよいと分かると抵抗なく記入できたようだ。読書好きの子たちが、図書室で「本棚カード」を囲んであれこれ話す姿も見られ、朝の読書タイムの時間には、しおり代わりにはさんでいる子も見られた。
一方、読むだけで少しもカードに記入しない児童もいたので、理由を聞くと、「カードをなくした」、「読むのは好きだが、つい書きわすれてしまい、次の本にかかる」、「わざわざ鉛筆を出すのが面倒だ」などであった。
今後の改善点:図書委員を動かして、啓発活動をする。
今回は初めての試みだったので、開始当時は図書委員もよく理解していない状態でクラスに記入法を伝達してしまったため、クラスメートからの質問にも十分答えられなかったり、カードをなくした者への対処も遅れがちになったりした。新学期に入るのを機に、もう一度、図書委員のクラス全体に対する説明を行い、カードの取り扱いにも注意させる必要があると思われる。
2 ねらい:個人カードの中から児童に合った情報を紹介する。
3冊読んでつまった「本棚カード」は、図書委員を通じて図書担当の教師のところに集まるので、これを調べれば、どんな本が読まれているか、その内容のどこが良かったかなどが分かる。今年度は、このカードを切り抜いて掲示することにし、集まったカードの中から、各項目ごとに「3」以上の評価を得たものを次々にはるようにした。(資料4)
もし愉快な本を読みたければ、「笑い度」の高い本のところをめくって、読むのにかかる時間などを参考にしながら本を選ぶことができるなど、図書ガイドの役目を果たすように工夫した。
児童の反応:本好きの児童は興味を持ったが、全体的には反応がなかった。
本校には図書館専用の掲示コーナーがなかったので、2階にある一般の掲示板の一隅に掲示したため、クラスごとの「本棚カード」集計表や、カードを利用した図書案内が貼りだしてあることを知らない児童も多かった。自分がカードを終了している者は友人を誘って見にいっていたようだが、たいていは気づかずに通りすぎていってしまったようだ。せっかく頑張って作ったコーナーなのだが、あまり活用されなかったように思われる。
今後の改善点:「本棚カード」の情報の生かし方についての広報活動をする。
図書委員会では、5・6年の児童が中心になり月一回のペースで「図書館案内」を発行しているが、漫画なども載っているので割合よく読まれている。(資料5)この中で「本棚カード」の情報の生かし方を紹介するなどして、図書の掲示コーナーを生かすようにしていく必要があると思われる。また、学級の読書の時間などに、担任の先生から「本棚カード」の記入を勧めてもらうのもよいと思われる。
3 ねらい:読書週間をきっかけに、各自の読書対象の広がりを促す。
本校では、11月に、読書週間として「親子読書」「読書感想文・感想画コンクール」を行っている。今年はそれに加えて、「本棚カードスペシャル」をすることにした。この「本棚カードスペシャル」用紙は、今までの「本棚カード」をもとに読書の幅が広がるように工夫したもので、10冊読むと一枚つまるようになっている。読書週間をきっかけにいろいろな本に親しもうという試みだが、冊数が10冊とやや多めなので、期間は11月〜12月の約3週間にした。
このカードは4つのレベルに分かれていて、それぞれに読むときの注意が書いてあり、順序にしたがって読み進むにつれて読書の幅が広がるようになっている。
レベル1……「自由読書」:どんな本でもよいから3冊読む。
レベル2……「テーマ読書」:自分なりに一つのテーマを決めてそれに関した本を 3冊読む。
レベル3……「色々読書」:十進分類法にしたがってジャンル分けしてある図書ラ ベルを見て、番号が違う本を選び3冊読む。
レベル4……「課題読書」:今年の読書感想画の課題図書3冊の中から1冊読む。
また、「本棚カードスペシャル」は、次のように進めた。
@ 全校集会・学級の朝の会で、図書委員が「本棚カードスペシャル」に
ついて説明し、お便りでも紹介する。
A 職員室横に「本棚カードスペシャル」の参加申し込み表を置いて、希望者に名前を書いてもらう。
B 名前を書いた人に「本棚カードスペシャル」用紙を渡す。
C つまった人には良いと思う本を選んでもらい、その本を購入して図書室に入れる。
D 新しく入った本は「友達の選んだ本」として図書コーナーに掲示し、
全校集会でも紹介する。
E 期間が終わった時点で、読んだ本の冊数に応じてしおりを渡す。
Aで希望者に申し込みをしてもらうようにしたのは、興味のある子にもない子にも一律に読ませるのではなく、「わざわざ職員室横まで行って名前を書く」ことで「やってみよう」という主体的な意欲が起こるのではないかと思ったからだ。また「本棚カードスペシャル」用紙には、申し込み順に学年やクラスに関係なく番号をうって、いつもとは違う感じを出すようにした。
また、今までの購入図書の選定は教師中心で、子供たちが本当に「読みたい」と思っている図書と同じかどうか、よくわからない面もあるので、Cで子供たち自身に「良いと思う本」を選んでもらうことにした。「10冊読めば好きな本を図書室に入れられる」ことも読むときに励みになると思った。
児童の反応:参加した児童が多く、とくに6年生はよく頑張った。
「本棚カードスペシャル」が始まった朝から次々と申し込みがあり、最終的には、対象185人中88人(4年生59人中22人、5年生76人中31人、6年生50人中35人)が参加、最終的に10冊読み終えた児童は43人(4年生4人、5年生16人、6年生23人)となった。
学年の人数とカードの進み具合の関係をパーセンテージで表すと、高学年になるほど参加者もその達成した割合も高くなっている。
5・6年のクラスが図書室に近いことや、年令が上の方が集中力や意欲が育ってきていることとともに、友人同士の影響力が大きくなって来る時期であることも関係しているのかもしれない。参加者の終了時のレベルにも同じ傾向が見られるようだ。
読書期間終了後に取ったアンケートの中から主な感想を次にあげる。
〈読書の機会を得て良かったと思っている児童〉
・最後まで読めなかったけど、たくさん本が読めてよかった。(6男)
・目標を持って本が読めたのでよかった。楽しかったのでまたやってほしい。(6男) ・今まであんまり本を読む機会がなかったので、10冊も読めて楽しかった。(6女) ・本を10冊読んだ後の「かいかん(快感)」はとてもよいものでした。(6女)
・いつもより本を読む回数が増えて、前まではめんどうくさいような気がしていたけど 今は本を読むのは楽しいと思って読んでいる。(6女)
〈いつもとは違った種類の本に触れた児童〉
・いろんなレベルで本を読んで、学校には今まで知らなかった本があることが分かりま した。(6女)
・いつもみたいに同じような本をよむのではなく、いろんなやり方で本が読めてとても 楽しかったし、参加してよかったなあと思いました。(6女)
・色々な本を読めたので知識や想像の世界などが広がった。(6男)
・図書ラベルの違う本で読みたいのがなかなか見つからなかったけど、その分、読んだ ことのない本が読めてよかった。(5女)
・今まで本を読んでいなかったのに、「本棚カードスペシャル」をして色々な本がある んだなあと思いました。もっと色々な本を読んでみたいです。(5女)
〈終了後に好きな本を選んだことが印象に残った児童〉
・カードが終わったら自分の好きな本を入れてくれるといったので、とてもいい企画だ なあと思った。それだけで読む気がわいてきた。(6男)
・おもしろそうだし、好きな本を入れたかったから、がんばった。(5女)
〈実際に本を選んでみて思ったことを書いた児童〉
・自分で選んだ本を、他の人にも読んでもらえるといいなと思った。(5女)
・みんなには分からないかもしれないけれど、僕の選んだ本を読んでこういうこともあ ったのかと思ってほしい。(6男、「ライバル日本史」を選んで)
・自分だけでなく、4・5・6年のことを考えて、みんなが読める本で自分も気に入っ た本を探すのが難しかった。(6女)
・たくさん入れたい本があったから、その中の1冊でとてもよかった。学校に入れる本 を自分で決められるなんて初めてのことで、すごくうれしかった。(5女)
また、学級担任の教師から聞いた児童の様子は以下のとおりである。
・新しく場を設定することで、子供たちのやる気が出た。締切があったので、なお集中 的に読めたと思う。
・自分の気に入った本以外も読んだので、違うジャンルに目が開かれた子が見られた。 ・自分の選んだ本が入るというのがやる気につながった。
・季節的にも天候が悪く、学校行事がない時期だったので、読書には丁度よかった。
・今まで読書に縁のなかった児童が集中して本を読む姿が多く見られた。「僕にこんな 力があるとは知らなかった。」と児童自身が驚く声も聞かれた。
今後の改善点:カード終了後の処理をもっと工夫する。
この「本棚カードスペシャル」は、アンケートの集計から見ても、読書量を増やしたり読む幅を広げたりするのには大変効果的であったと思う。ほとんどの児童が「参加してよかった」、「またやってほしい」と書いているので、色々準備し計画すればそれだけ児童の意欲を引き出してやれることが分かった。
6、今後の課題
今年度の実践で、「本棚カード」を使った読書記録については、もう少し工夫しなければならないことが分かった。カードを個人ごとにファイルしておき、折りを見て自己の読書傾向を振り返らせたり、何枚か終了した時点で好きな本を選んでもらったりすることで読書意欲を刺激して、このカードをどんどん書かせ、自分の読書経験を客観的に見る力を育てていきたいと思う。
また、「本棚カードスペシャル」については児童の要望も多いので、同じ形で恒例化していきたいと思う。一方、今回参加しなかった児童の中に次回は参加するかどうか分からない者が多いので、この層のやる気をどこまで引き出せるかもう一工夫したい。そのために、「自分から『本棚カードスペシャル』に参加する」という主体的な活動を通し、児童の意識を'与えられた読書'から脱して'自ら欲する読書'へと変化させて行くよう、今後も研究を続けていきたいと思う。